|
世界経済フォーラム(WEF)が9月に行った発表によると、日本のジェンダーギャップ指数は世界117位。G7最下位を脱せない現実が示すのは、日本の女性活躍がポーズに過ぎないという不都合な真実だ。
なぜ日本は変われないのか。世界の女性リーダーを取材してきたForbes JAPAN Web編集長の谷本有香と、「WOMEN AWARD」編集デスクの薦田美奈子、ジェンダー平等の先進国、オランダの大学でジェンダー学を修めたアカウントディレクターのソーン・マヤが、建前だらけのD&Iを蹴散らす本音トークを炸裂させる。
働く女性たちが抱え込む言葉にできない違和感や責任のすり替え。その背景にある問題の本質とは。
 |
谷本有香 (Forbes JAPAN Web編集長) |
私は日本のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が、高市政権になっても変わっていない、むしろ経済分野ではジェンダーギャップ指数が落ちて(昨年112位、今年119位)、後退していることに驚いているんだけど、おふたりは今の日本のD&I、どこに課題を感じていますか?
 |
薦田美奈子 (Forbes JAPAN「WOMEN AWARD」デスク) |
まず、「女性活躍」っていう言葉にすごく引っかかっていて。女性が活躍するというと、変に持ち上げられているように感じて、とても違和感があります。
 |
ソーン・マヤ (ブランドスタジオ アカウントディレクター) |
私は最近、この本(『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』河出書房新社)を改めて読んで、確かに、と思うことがありました。そこに書かれていたのは、女性活躍のスローガンは本来、「女性は何だってできる」というエンパワーメントの文脈にあったんだけれど、それがいつの間にか「あらゆる役割をこなすべき」に置き換えられていたこと。女性が母親や職場での「何でも屋」、果てはカウンセラー役まで求められるようになった結果、D&Iは女性にとってすごく疲れるものになっているなと。
そもそも男性のニーズをもとにつくられた労働市場で、女性は自分の価値を証明していかなきゃいけない辛さがある。男性と同じ器に入れてかき混ぜればいいってものじゃない。そこに侘しさがあります。
薦田
最近、ガラスの天井ならぬ「ガラスの崖」という言葉が注目を集めていますよね。2004年にイギリスのエクセター大学の教授が提唱した造語で、組織が危機に陥ったときほど、女性がリーダーや幹部に起用されやすい現象を表しているそうです。
高市首相しかり、大企業の女性経営者しかり。ようやくガラスの天井を破ってトップに立ったと思いきや、崖っぷちの状態に置かれる。利用されているようで、悲しいですね。
マヤ
この10年間で、男性に変化を求める声は強まったと思うんです。だけど先日も国会で、女性議員が男性議員に丸めた紙のようなものでお尻を叩かれている様子が中継動画に映っていて、話題になりました。でも当の女性議員は「映ってたの?全く気づきませんでした」と受け流していて。ああいう場面で声をあげられない空気が、まだあるんだと思います。
あとは、女性政治家が男性の政治家や経済人に媚びるような様子を見ると、つらい。女性自身が男性社会を受け入れてしまっている。
薦田
それは私たちの世代が慣らされてきたことで、そうしないと生きていけなかったんですよ。だけど今、若いマヤさんがそこにちゃんと違和感をもってくれていることに、希望がある。
マヤ
でも、若い世代には逆の流れもあるんです。怖い調査結果があります。イプソス(調査会社)と英キングス・カレッジ・ロンドンが2026年に発表した、世界29カ国を対象としたジェンダー観に関する調査では、Z世代の男性で「妻は常に夫に従うべき」と考えている割合が3分の1(31%)に上り、ミレニアル世代(29%)やベビーブーマー世代(13%)を上回ったそうです。
薦田
経済をはじめ、いろんな格差が広がるなかで、ジェンダー意識の差も開いているのかもしれないですね。
谷本
もしかして世界的な右傾化の流れと関係しているのかしら? ジェンダー観を揺り戻すような考え方が、若い世代に戻ってきているのかもしれない。
ちなみにマヤさんはこういう現状があるなかで、それを打破する起爆剤になるだろうという人は思い浮かびますか? 例えば上野千鶴子さんのように、ジェンダー研究の旗振り役になってくれる人もいますよね。
マヤ
上野さんの東大入学式の祝辞(※)には、私自身大きな影響を受けました。でも、救世主のような人が出てきても、すべてを背負わせるのは難しい。完璧な人なんていないのに、フェミニズムのなかでも評価が厳しいんですよね。シスターフッドで団結することの難しさやもどかしさを感じます。
谷本
女性はコミュニケーション能力があるし、すぐに互いに仲良くもなれるんだけど、徒党を組めないのよね。理由は、叩かれるのが分かっているから。
※…2019年4月の東京大学学部入学式で、社会学者の上野千鶴子氏が述べた祝辞。社会に残る性差別を指摘し、恵まれた力を恵まれない人々のために使うよう説いた。
「言葉にできない違和感」の正体
谷本
おふたりにとってジェンダー平等とは? どうなったら平等だと言えますか?
薦田
体力面での違いもあるので、完全な平等はありえないと思います。だとすると、やっぱり性差を意識せず、やりたいことをやれることかな。男性の育休取得とか大事だけど、本質ではない。意識の問題だと思います。
たくさんの女性リーダーに取材し、彼女たちからしばしば聞くのが、会社で「お母さん的な役割を求められる」ということ。
谷本
なるほどね。すごくわかる。
薦田
周りは多分無意識だと思うんです。女性だからとか絶対言わないし。母親のような役割を当然のように期待していて、それが良き女性リーダー像だと思っている。例えば男性上司から「ちょっと話を聞いておいてくれないか」とか、「ケアしてあげて」と言われたり。もちろん、男性同士でもそういうことはやっていると思いますが、女性に求めるものとは少し違うんですよね。
谷本
マヤさんはどうですか?
マヤ
私は政治ですね。組閣のときに首相官邸の階段に閣僚が並んで撮る写真がありますよね。あそこにもっと女性が並ぶところを見たい。ただ、男性中心のやり方に従う人だけが増えるのなら、中身は変わらない。
極論を言えば、階段に並ぶ全員、そして裁判官も全員女性になって初めて、平等だと思えるかもしれません。そうなったら社会のルールが変わり、男性が家庭に入ったってことですよね。
谷本
なんで世界で日本だけがこんなにも変わらないんだろう? 経済領域でD&Iが後退している理由は何だと思いますか?
薦田
よく「女性が挑戦したがらないから」とか言われますよね。本当にそうなのか?
マヤ
そもそも挑戦の定義が、男性的なんですよね。
薦田
女性が組織で上っていくためには、家族や職場の一人ひとりを説得して、上手くいくように擦り合わせることを求められる。その手間や気苦労を考えたら、「もういいや」って諦めたくなるんじゃないかな。一方で、男性は女性ほど強くそれを意識しなくていいから、やる気を基準に手を挙げられる。
谷本
確かに。制度や仕組みの問題じゃなく、空気や文化の問題ですね。
マヤ
私は仕組みも大事だと思うんです。知り合いの話では、会社で女性用トイレに「生理用品を置いてほしい」と頼んでも、なかなか応じてもらえないそうなんです。でも、男性用トイレにはマウスウォッシュが常備されていて、それは『仕事に必要』だとみなされている。
生理って経済の話じゃないですか。体調が仕事のパフォーマンスに直結するし、生理用品がトイレに用意されている会社なら、社内外に「社員を大事にする会社」というプラスの印象を与えられる。
育児と仕事の両立も同じです。子育てをしながらキャリアを描けないと悩んだ女友だちが、男性の上司に相談したら、「子育て中の女性社員に話を聞いてみたら?」のひと言で終わったらしいんです。どちらも仕組みの問題なのに、女性個人の問題にされてしまう。
薦田
男性の多くは、上の人たちが築いてきたキャリアの階段があるから、そこを上がればいいと思ってるんでしょうね。でも女性は違う。一人ひとりに最適化が必要。
マヤ
見えない違和感がずっとあるんですよね。
薦田
そういうことが積み重なって、女性は息苦しさとか、生きづらさを感じているんでしょうね。決定的にこれが足りない、ということじゃなく。
>>後編に続く
|