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昨今、かつてはあまりいなかったタイプの富裕層が増えてきたように思う。総中流といわれた時代にはそれほど貧富の差はなかったが、日本でもIPOや事業譲渡を通じて、多額の資金を一度に手にする人たちが次々と生まれるようになった。
フォーブス ジャパンを創刊したとき、最初に議論したのは「金持ちランキングをどう扱うか」だった。長者番付は毎年メディアでも大きく取り上げられる米国フォーブスの看板である。しかし私はそれを前面に打ち出すことに違和感を感じていた。人の資産を数えて並べたところで、正直それほど面白くはない。
そこで「いくら持っているか」ではなく「そのお金をどう使っているか」に焦点を当てて特集を組んだ。すると、使い方にこそその人の個性が表れ、しかもその形が驚くほど多様であることが見えてきた。
世界の長者番付を見ると、2026年3月時点で3,428人のビリオネアのうち67%がセルフメイド、33%が相続による資産である。少なくとも世界に目を向ければ数のうえでは、自力で築いた人が多数派だ。日本はまだまだ、トップ富裕層では相続による資産形成が主流と思われるが、その流れに少しずつ変化も出てきている。
資産の使い方で個性が出るのは、やはりセルフメイドで築いた人たちである。先代の資産を保全するという縛りがなく、自分で挑戦し機会を掴んだからこそ、自由に使えるからだ。
ただし、セルフメイドの成功が本人の能力だけで説明できるかというと、そうではない。出身大学のブランドや強固なネットワーク、あるいは先進国の安定した政治や世界の経済発展に助けられ、誰かが敷いたインフラをうまく使ってきたはずだ。日本のセルフメイド富裕層も同じで、幸運を掴むための努力は本物だが、その土台の上に立っていることに変わりはない。
日本は本当にいい国だ。平和で、電車は時間どおりに来て、蛇口をひねれば飲める水が出て、空気も綺麗だ。大企業の硬直化や政治の不安を嘆く声はあるが、この環境は当たり前に存在していたわけではない。高度成長期、バブル、その崩壊、そして長いデフレを、先人たちが必死に働いて通り抜けた結果である。
そのデフレを抜け、インフレ局面に入ったいま、貧富の差はますます広がる。野村総合研究所の推計では、純金融資産1億円以上の富裕層・超富裕層は2023年に165.3万世帯と、2021年の148.5万世帯から11.3%増えた。ただし、これは米国型の格差とは性質が違う。インフレ環境下で、事業が飛躍的に成長し、株式や土地が上昇することで富める者がかつてないほど富む一方、収入が伸びない層が物価上昇によって相対的に貧しくなる。貧困層が劇的に増えるのではなく、上が伸びて差が開く構図だ。
だとすれば、富める側が考えるべきことははっきりしている。先人が私たちに残してくれたように、自分の富の一部で後の世代に何を残せるか。言い換えれば、いかに社会に還元するかである。
富裕層は一般に税率が高い傾向があり、納税も間違いなく社会還元の一つだが、そこに個人の選択の余地はない。選べる還元の一つは寄付である。
日本人が寄付をしない国民だという指摘があるが、それは正確ではないだろう。2024年の個人寄付総額は2兆261億円と過去最高で、ふるさと納税の1兆2,728億円を除いた額も7,533億円と伸びている。1年に一度でも寄付をした人の割合は44.5%、ほぼ二人に一人だ。東日本大震災、能登、熊本と、災害のたびに多くの人が寄付をしてきた。ただし災害寄付は一過性であり、そもそも大規模災害への対応は本来、政府や自治体が主体的に担うべきものだ。
民間の富裕層が考えるべきポイントは二つある。第一に、寄付を「自分ごと」にできる形を選ぶこと。自分の悩みや経験が活きる領域、自分の事業に直接インパクトが返ってくる領域にお金を出す。他人任せの送金ではなく、顔の見える関与にすることだ。LGBT、犬の殺処分、難病、地元の活性化——自分ごとの課題であれば意義を見出しやすく、続けるハードルが下がる。
第二に、インパクトを考えること。限られた資金でどれだけ大きな変化を起こせるか。寄付が集まりやすい総合大学ではなく出身高校へ。寄付文化が定着している私立ではなく、公立へ。同じ金額でも、置く場所で効き方がまるで違う。
私自身、最近、母校の高校の寄付を始めた。横浜の市立高校で、これまで寄付を受けた前例のない学校である。そこで起業家育成講座を立ち上げ、最後には生徒たちを米国に連れて行き、現地で交流させるプログラムをつくった。多感な時期に自分を育ててくれた場所に、50年ぶりに返す。
たった1年のプログラムでも、若いうちに社会課題を自分の言葉で考える機会を得るインパクトは大きい。目線が変わるからだ。ここで火がついた生徒の何人かは、20年後、30年後に日本を背負って立つ。そのときのリターンは、どんな投資のリターンよりも大きい。
これからセルフメイドの資金は自由度が高い。だからその使い方は多岐にわたるだろう。その資金がこれからどこに向かい、後世にどんなインパクトを残すのか。岐路に立つ日本にとって、これは小さくない好機である。
高野 真
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