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御社にとっての「モート(堀;参入障壁)」とは?
成長著しいスタートアップの起業家に自社の競争優位性について聞く、定番の質問だ。インタビュー前に、リサーチや周辺取材で調べているので、答え合わせの側面もある。経営者も秘密のレシピをメディアに打ち明けるわけもないので、答えを額面どおりに受け取るのも難しい。だが、角度次第で答えからヒントを読み取れる便利な問いでもある。
先日、「Airwallex(エアーウォレックス)」の共同創業者兼社長Lucy Liu(ルーシー・リウ)さんとのインタビューで、同社の強みの一つとして「規制」が話題に上がった。同社は、2015年創業の豪州発の金融決済・送金プラットフォームで、国際送金や多通貨の法人口座、法人カード、経費管理などのサービスをグローバルに展開。2026年6月にはさらに3億2,000万ドルを調達し、企業評価額が約110億ドルのいわゆる「デカコーン」として世界的な注目を集めている。
リウさんをはじめとしたエアーウォレックスの創業者たちは、決済を超えて顧客の財務運営を自動化・統合する「グローバル金融の未来」を構築しようとしている。そうしたこともあり、金融業界の厳格な規制は避けて通れないハードルだった。当然、攻略できた時の見返りは大きい。豪州を皮切りに70カ国以上の規制当局と対話を重ねることで、信頼関係を積み上げてきた。その積み重ねがあってのデカコーンなのだ。
金融機関に課せられている煩雑な規制をクリアする難しさはよく知られている。リウさんも、ライセンスを取るのは「本当に大変な道のりでした」と振り返る。しかし、興味深かったのは彼女がそれに続けて話したことだ。
「(ライセンスの更新を)維持していくことのほうが、取得するよりもはるかに大変です。ライセンスの取得は、最初の一歩にすぎません。本当の課題は、データや顧客をどう管理し続けるか、にあります。事業の拡大につれ、今では年間2,870億ドル以上を決済処理し、60万もの顧客を抱えています。途方もなく大きな責任です」
リウさんと一緒にエアーウォレックスを立ち上げたジャック・チャンCEOは自社サイトで、こう書いている。「自らライセンスを保有する以上、最終的な責任は私たちが負うことになります。当然ながら、こうした選択はより厳しい精査を招きます。その責任を引き受けたからこそ、規制当局もより直接的に私たちと向き合うのです。
それは、平均的なフィンテック企業よりも多くの検査や報告義務を伴い、私たちの業務運営についても、より詳細な情報が規制当局から把握されることを意味します。日々、私たちは世界中の数十もの監督機関と緊密に対話を続け、ライセンスを保有するすべての管轄区域における極めて特殊な報告義務にも直接対応しています。こうした深いレベルでの関わり合いこそが、私たちをより強靭な企業にしてくれると確信しています」
ライセンスの取得それ自体ではなく、チャンCEOが「The Path of Max Resistance(最大級の抵抗が待ち受ける道)」と呼ぶ、ライセンスを継続して運営・維持するこのアプローチこそが、真のモート(堀)だとリウさんは解説する。
こうしたサービスは、自らライセンスを保有して当局対応を担う体制を築くまでに、数年単位の時間とコストがかかる。そのため後発企業が容易に模倣できず、それが価格決定力や高い切り替えコストにつながる。一言でいえば、面倒くさいのだ。
もっとも、この自前主義がフィンテックの唯一の勝ち筋というわけではない。銀行と提携し、ライセンスをもたずに事業展開するBaaS(サービスとしての銀行)型のモデルを選ぶ競合も多く、スピードと身軽さでは軍配が上がる場合もある。エアーウォレックスの賭けは、その対極にある。
「モート(堀)」という言葉を一躍有名にしたのは、“オマハの賢人”こと、世界的投資家のウォーレン・バフェットだ。競合他社が容易に模倣・参入できない持続的な競争優位性、ブランド力、低コスト構造、ネットワーク効果、顧客ロックインなどによって、長期にわたり高い収益性を守る要素を一言でそう呼んだ。
しかし、どれだけ優れたビジネスモデル(城)をもっていようと、経営者の資質や規律、覚悟を誤ればその堀は簡単に干上がってしまう。目の前の面倒な課題から逃げず、規律をもって地道に体制を維持・強化し続ける経営者こそが、構造的な優位性であるモートをさらに強固に広げていく。
このスタートアップはどこまで成長するか。良好な会社止まりではなく、偉大な会社に育つだろうか。成長戦略はもちろん、自社のアイデンティティへの理解、メタ認知、そして何よりも創業者たちの覚悟。モートについての質問は、会社の伸び代を含め、さまざまなことを教えてくれる格好の物差しなのだ。
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