合田真がモザンビークの農村で展開する“銀行”は、携帯端末を置いたキオスク店舗が“支店”機能を担い、顧客は電子マネーにチャージして“預金”する。
合田がモザンビークに進出したのは2007年。当初は社名の通り、バイオ燃料の取引が目的だった。だが、12年に現地に子会社をつくると、ソーシャルビジネスに乗り出す。村々を回って農民組織をまとめ、6,000人に苗木を配る。それを燃料にして発電し、農村に灯りを届ける取り組みだ。
だが、もともと電気がなかった村のこと。そもそも電化製品を持っていない家庭がほとんどだ。そこで、村にキオスクを設け、小さいランタンを用意して充電し、1日単位で貸し出すことにした。電気が届けば冷蔵庫を置ける。冷たい飲み物も売れるようになった。
半面、大きな問題も浮上した。
「2週間に1度の棚卸しでは、キオスクの現金が毎回30%ほど足りない。現地の人は『妖精が取っていった』と言いますが……」
困った合田はPOSシステムと電子マネーを導入し、現金を使わない仕組みをつくる。これが“銀行”の出発点となった。
モザンビークの主要産業は農業。多くの国民は、とうもろこしや砂糖、綿花の栽培で生計を立てている。農民は収穫期に大金を得るが、問題はその預け先。モザンビークにも銀行はあるが、大都市にしか支店がないため、アクセスは極めて不便だ。そのため農民たちは壺に現金を入れて床下に埋めるなど、原始的な方法で財産を守ってきた。
そうした中に、合田が電子マネーを導入。すると、農民たちは予想外の使い方をするようになる。電子マネーに入金すれば、財産の保全が楽になることに気づいたのだ。
「実際に使う金額は月間5,000円程度なのに、中には40万円ほど電子マネーに入れる人もいる。それを見て、安全にお金を預けたいというニーズがあることがわかりました」
世界銀行の2015年のレポートによると、銀行口座を持たない成人は世界で20億人にのぼる。サブサハラ・アフリカ地域で銀行口座を保有する成人の割合は34%程度と低く、合田の取り組みは既存の銀行が取りこぼした層の受け皿を担うものと言える。
合田の電子マネーは今、国連食糧農業機関(FAO)による、農民への補助金の支給でも使われている。「現金を渡すのではなく、農業資材を買う時にだけ、電子マネーの残高から引かれる仕組みです」
合田は5月10日、イタリア・ローマにいた。世界食料安全保障委員会の会合に出席するためだ。ここで、グラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌスらと、ソーシャルビジネスによる貧困や飢餓の克服について議論を交わした。
「長い内戦を経験したモザンビークは、その影響がいまだに影を落とし、コミュニティが崩壊したまま。木を植え、発電し、便利な村をつくっていく過程で、コミュニティ機能もつくっていきたいと考えています」
合田の視線の先にあるのは、燃料取引や、金融ビジネスを超えた社会開発。壮大な社会実験の構想が広がっていた。