未来のチャットはほとんど「魔法」だ

キックの創業者、テッド・リビングストン(photograph by Michel le Gibson)

雪が降り積もる1月のある日。カナダ中部の都市ウォータールーにある飲食店でスマートフォンを取り出し、チャットアプリ「Kik(キック)」を開いて壁のQRコードをスキャンすると、チャット画面が現れた。

―バウアー・キッチンへようこそ! ご注文は?
〈ドリンク〉
―下のメニューからお選びください。
〈ダイエットコーク〉

そう入力すると、数分後にやって来たウエートレスは注文を聞くこともなく、コーラのグラスをテーブルに置いた。

メッセージアプリを使うだけで生活が豊かになる。これがIT業界で盛んに言われる「オンラインからオフラインへ(O2O)」の“魔法(マジック)”だ。モバイルアプリの黄金時代は終わったと言われている。

必要なアプリは出尽くし、使うものをメッセージアプリやSNSに絞っている人が多い。企業も自社アプリを顧客に押しつけるために無駄金を使うより、顧客がすでに使っているキックやフェイスブック・メッセンジャー、ラインなどのアプリを活用している。

メッセージアプリを使う上で、企業にとっての最大の問題は、顧客とのやりとりを誰がやるか。新たに人材を雇うのか、既存のスタッフを教育するのか―。

今、そこに「チャットボット」あるいは、「ボット」と呼ばれる“ロボット”という新たな選択肢が浮上している。人工知能(AI)の急速な進歩により、コンピュータが人間の言語を今まで以上に正確かつ迅速に処理できるようになった。

その結果、相手のメッセージに対して、プログラムが自ら判断して、“会話”できるようになってきたのである。そして、多くのメッセンジャーアプリ開発企業が、このボットを利用している。

なかでも積極的なのが、中国の「WeChat(微信、ウェイシン)」だ。同社は、月間アクティブユーザー6億5,000万人を誇る中国最大のメッセージアプリで、すでに何百万もの企業がWeChat上で「公式アカウント」を開設して決済や広告配信に活用している。2015年の総売上高は、推定38億ドル(約4,000億円)にのぼる。多くはゲームやビデオ広告の配信による収入だが、今後、商品やサービスの販売が増えれば、決済手数料が大きな収益源になる。

WeChatに公式アカウントを持つ約1,000万社の多くは人間とボットを併用している。例えば、広州のあるレストランでは、WeChatのアカウントをタップし、メニュー上で食べたい点心をタップすれば注文は完了する。WeChatで中国南方航空に「2016年1月22日、広州から北京」とチャットすると、搭乗可能な便と運賃を教えてくれる。支払いはWeChatの決済サービス「微信ペイ」だ。

フェイスブックのメッセンジャーも「人間+ボット」という道を進んでいる。15年3月に立ち上げた「ビジネス・オン・メッセンジャー」を利用する企業は24社ほど。その中の1つ、配車アプリ「ウーバー」では、ユーザーがメッセンジャーに乗車したい場所を打ち込んで配車を依頼すると、ボットがドライバーの到着予定時間を送信してくる。

ほかにもアップルの「Siri(シリ)」やマイクロソフトの「Cortana(コルタナ)」など、すでに多くのチャットボットが登場しており、今後はさまざまなサービスで、ボットが果たす役割が大きくなりそうだ(編集部註:フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、4月12日、メッセンジャーを使って「ボット」が消費者とメッセージをやりとりする新たな仕組みを企業に提供すると発表している)。

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編集=井関庸介 文=パーミー・オルソン 翻訳=岡本富士子/パラ・アルタ

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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