バリュー投資で最も高くつく教訓の1つは、「安い株」が必ずしも「価値のある株」ではないと学ぶことだ。投資家はしばしば、まず倍率(マルチプル)から入る。株価を利益・キャッシュフロー・純資産といった財務指標で割った値だ。
ある企業が利益の8倍(株価収益率[PER]。株価を1株あたり利益で割った値)、キャッシュフローの6倍(株価を1株あたりキャッシュフローで割った値)、あるいは簿価を下回る水準(株価を1株あたり純資産で割った株価純資産倍率[PBR]が1倍を下回る状態。簿価割れ)で取引されている。そう見た瞬間に、割安な株に違いないという結論へ一気に飛びつく。そうかもしれない。だが、倍率だけでは分かることは非常に少ない。
編注:簿価とは、会計帳簿に記載された資産や負債の価額をいう。資産の簿価は取得時の価格から減価償却分などを差し引いて求めるため、市場で売買される時価とは一致しないことが多い。企業全体では総資産から負債を差し引いた純資産(株主に帰属する持ち分)を指し、株価がその1株あたりの額を下回る状態を簿価割れと呼ぶ。ただし帳簿上の金額が大きくても、その資産が十分な収益を生まなければ、簿価は実際の価値を過大に映すため、本稿は帳簿上の数字と本当の価値との差を繰り返し問うている。
株は何年も割安なままであり得る。事業が悪化し、経営陣が資本を毀損し、投資家が永遠に来ない見直し(リバリュエーション)を待つ間に、株はさらに安くなることすらある。掘り出し物に見えるものが、問題を抱えるがゆえに正しく評価された企業にすぎない場合もある。私はPayPalをそうした局面の1つとして取り上げ、「溶けゆく氷山」と表現したとき、投資コミュニティから多くの批判を受けた。株は安く見えたが、根本的な問題は複利的に積み上がり続けた。いずれ安定に向かう可能性はあるものの、まだ危機を脱したとは言い難い。低い倍率は誰の目にも明らかだった。欠けていたのは、悪化を止め、市場の見方を変え得る信頼できる触媒(カタリスト)だった。
私は30年以上にわたり、企業、スピンオフ、アクティビスト案件、市場の歪みを研究してきた。私が見つけた最大級の機会のいくつかは、低いバリュエーションから始まった。最悪の罠もまた同様だった。違いは、出発点となる倍率であることはほとんどなかった。
両者を分けたのは、その企業に価値ある資産があるか、意思決定者の利害が一致しているか、価格と価値のギャップが埋まるだけの信頼に足る理由があるかどうかだった。触媒(カタリスト)を欠いた価値は塩漬け、つまり動かない死に金(dead money)のままになり得る。私の会社が主戦場とするのは、まさにここだ。触媒を伴う価値だ。触媒がなければ、投資は実現への確かな道筋よりも希望に依存しがちになる。



