今回欧州を襲っている熱波で、人々は1週間をはるかに超えて苦しみ続けている。気温はしばしば摂氏35度超(華氏100度)に達し、夜間でも摂氏28度(華氏80度)を下回ることがない。フランスを中心とした南欧一帯に、まるで電気毛布が(これも欧州ではあまり見かけないものだが)かぶせられているかのようだ。欧州の住宅にはエアコンを備えた家がほとんどないため、政府機関は冷房の効いたショッピングセンターに行って涼むよう人々に呼びかけている。
この熱波は、ブドウ畑のブドウの木にも深刻な影響を及ぼしている。木々には、照りつける太陽や吹き込む熱風から身を隠す術がない。
すでに4月の時点で、異例の暖かさが2週間ほど続き、ブドウの木の生育は猛スピードで始まった。5月に「グルナッシュ・デュ・モンド(Grenaches du Monde)」コンクールでルシヨンを訪れたとき、小さな房をつけたブドウの木が予定より進んでいることは一目瞭然だった。6月に数週間続いた高温少雨が、その進行をさらに加速させた。
では、ブドウ畑には何が起きているのか。この天候はブドウ畑にさまざまな影響をもたらしうる。
収穫の前倒し
この時期、生産者は収穫開始時期をかなり正確に見積もれる。シャンパーニュは8月に収穫が始まるし、ボルドーもおそらく同様だ。ルシヨンでは、7月にもブドウの収穫が始まる可能性が言及された。
これは「ロジスティクス(物流)」上の問題につながりかねない。南欧では通常、8月が休暇の月である(そう、欧州には1カ月の休暇がある)。多くのブドウ栽培者にとって、休暇は日程変更か中止を迫られるだろう。例年より早い収穫期に向けて、十分な収穫労働者を確保するのが難しくなる可能性もある。
もっとも、これらは人員や段取りの問題として、まだ対処可能かもしれない。ほかの影響は、そう簡単にはいかない。
水分ストレスと熱ストレス
暑いときに水分を十分に取らない人間は、失神したり他の不調に見舞われたりする。ブドウも同じだ。水が必要である。
根を長く伸ばした古い木は、まだいくらか湿り気の残る深さの土壌まで届くことができる。だが若い木は苦戦する。
「十分に」暑い状態が長く続くと、ブドウの木は「防御モード」に入ることがある。葉には気孔と呼ばれる小さな開口部があり、そこを通じて植物は呼吸し、二酸化炭素を取り込む。しかし気孔は、植物体内の水分が蒸散する経路でもある。そこで、わずかに残った水を守るため、気孔を閉じる。すると成熟が止まる。
つまり、やや直感に反するが、暑さがかえって成熟を止めてしまうこともあるのだ。これが水ストレスである。ブドウは適切に熟さない。
日焼けしたブドウ
高温で日差しが強いと、「日焼け」したブドウが出るリスクもある。日光にさらされすぎると、実がしなびて小さなレーズン状の粒になってしまう。実質的には枯死である。これは通常、房の片側、日光を受けた側だけに起きる。そのため収穫時には、片側は通常の完熟果なのに、反対側は小さく硬くしぼんだ「ブドウではないもの」が混じる房が持ち込まれることになる。
バランスを欠いた果汁
例年より高温で乾燥した条件下でブドウが急速に成熟すると、ワインへと発酵するブドウ果汁(マスト)のバランスが不均衡になることもある。一般に、マストが最良の状態になるには3要素が適切に交差する必要があるとされる。糖、酸、フェノール類である。
成熟が進むと糖度は上がる。成熟の終盤、収穫直前には、この糖度が非常に速いペースで動くことがある。数日で大きく変わりうる。糖が高いほどワインのアルコール度数は高くなる。
糖と並行して、ブドウの酸度は逆の方向に動く。下がっていくのだ。熟していないブドウは(ほかの果物も同じだが)刺すように酸っぱく、あまり甘くない。熟しすぎると、締まりがなく、つまり酸が足りず、甘さばかりが際立つ。
3つ目のプロセスがフェノールの成熟である。これはタンニンや色素、さまざまな風味成分、すなわちフェノール類が発達していくことを指す。
理想的には、これら3要素は完全に熟したブドウへ向けて同時に進む。糖は上がり、酸は下がり、フェノール類は成熟する。
成熟が猛烈な速度で進むと、この3つの過程は「足並み」を崩しかねない。それぞれが最適点に同時に達することはなく、果汁はバランスを欠く恐れが出てくる。
さらに、あらゆることが速すぎて、完璧な収穫タイミングを選ぶのが難しいという課題もある。



