また、価格はテクノロジーの物語とは別に、固有の働きをするという事実を思い知らせるものでもある。WGCによると、2026年の第一四半期、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)の金の価格は1オンス平均4873ドル(約78万2000円)という過去最高の水準で推移し、1月には5405ドル(約86万8000円)に達した。部品構成表(BOM)に金部品を抱えるすべてのエンジニアに、使用量を減らす手段を見つける強い動機が生まれる水準だ。置換の波は、AIサーバーが1台も建設されなくても押し寄せていただろう。AIが始めたのではない。AIは、いくつかの領域でそれに逆らって泳げるほど強いだけだ。
何が状況を変えるのか
「AIは金需要にとってプラスか」という問いへの誠実な答えはこうだ。どの金を指すかに完全に依存し、その結論が出るのはまだ先のことだ。現時点では2つの力はほぼ引き分けに近い。興味深いのは、どちらが先に息切れするかだ。
AIハードウェアが増殖を続け、その高い信頼性を支える金へのニーズが他の領域でのエンジニアによる使用料削減を上回るペースで進めば、テクノロジー需要はようやく本格的に増え始める可能性がある。そしてその傾向は、今後数回の四半期レポートで明確に示されるだろう。
逆に代替技術の開発を進めるエンジニアが勝ち、パラジウムなどによる高度なめっき技術、次世代のチップ設計によってデータセンターによる消費速度以上のペースで金の消費量削減が進めば、たとえAI関連の設備投資が轟音を立てて進んでも、金のテクノロジー需要は横ばいか減少にとどまる。
結局のところ、歯科の診療椅子が不況で金を失ったわけではない。より良く、より安い素材に負けたのだ。それこそが、金の他のあらゆる用途に忍び寄る、静かなる脅威なのだ。
合計ではなく、差(スプレッド)を見よ。台湾と韓国が日本と欧州から四半期ごとに10〜12ポイントずつ引き離していくなら、それは乖離が拡大しているということであり、「横ばい」の見出しは重要な点を省いて嘘をついていることになる。信じるべき数字は、誰も見出しにしない数字である。
3000年にわたり金が歯に使われたのは、それ以上にうまく仕事をするものがなかったからだ。ところが今日、別の素材がそれを成し遂げた。あなたのスマートフォンの内部にあるボンディングワイヤーにも同じ運命が訪れるのか。いま造られているAIマシンが、その差分を埋めるほどの量の金を使うのか。見るべきはそこだ。総量の数字は最後までそれを教えてはくれない。


