高速車線は、世界の先端チップの大半を製造するTSMC(台湾積体電路製造)の数字に表れている。同社の売上高は3月だけで前月比30%跳ね上がった。AIサーバーは貪欲な機械である。莫大な熱を放ち、フル稼働で走り続け、腐食する接点や18カ月で断線するワイヤーを許容できない。腐食せず、折れずに曲がる金は、これらの要求を満たす。データセンターのうち故障が極めて高額な出費につながる箇所では、価格など構わず金が使われる。
次に低速車線だ。すべてのスマートフォンやノートPCに使われるメモリーチップは、チップをパッケージに接合する髪の毛よりも細い「ボンディングワイヤー」のおかげで、長年エレクトロニクス分野における金の最大顧客の1つだった。だが金価格は急騰し、部品メーカーもその動きに注目している。WGCは、消費者向け電子機器のメーカーが「金を削減または置換する取り組み」を全速力で続けたと報告している。より薄いめっき、より選択的なめっきが選ばれ、安価な代役としてパラジウムが市場に入り込んだ。いずれも新しい話ではないが、過去最高の価格が、こうした緩やかな潮流を急流へと変えた。
ここは立ち止まって確認する価値がある。というのも、ここで安易な物語は崩れるからだ。節約はAIのせいで起きているのではなく、金が高いから起きている。エンジンが違うのだ。AIは、本来なら節約で押し下げられる需要を下支えしているにすぎない。AIチップを集計から外せば、テクノロジー分野の金需要はほぼ確実に縮小していただろう。この1%増は、AIが金にほとんど影響しない証拠ではない。AIが、下落しつつあるカテゴリーを底から救い上げている唯一の存在であることの証拠なのだ。
地図が語る真実
この読みが正しければ、需要の地理的分布は、AIを構築する地域と安価なガジェットを造る地域とで整合するはずだ。実際、ほぼ完璧に一致している。
モデルを学習させるチップの拠点である台湾では、金需要が9%増加した。メモリーの製造工場がフル稼働する韓国は、生産の好調と工場の高稼働を背景に7%増。中国本土は自国のサプライチェーン構築に伴い5%増となった。米国は6%増で、国内の半導体工場やEV(電気自動車)工場への資金流入による初期の押し上げが見られた。
一方で、マイナスの動きを見せた地域は次の通りだ。日本は1%減。消費者向け電子機器、まさに金を設計から外す圧力が最も強い領域への依存度が高く、それが重荷になった。欧州は製造業の不振と需要の弱さが足を引っ張り、3%減となった。


