銀行は過去10年間、業務の自動化に取り組んできた。しかし次のフェーズは様相が異なる。AIは意思決定を行い、ワークフローを調整し、人間の介入を最小限に抑えながらシステム全体でアクションを実行し始めている。
この変化は「エージェント型AI(agentic AI)」として知られる。従来の自動化と異なり、エージェント型AIはプロンプトに反応するだけではない。目標を解釈し、システムにアクセスし、データを評価し、次のステップを自ら開始する。
金融機関にとって、その意味合いは計り知れない。
マッキンゼーによれば、生成AIと関連技術は、生産性向上、収益成長、リスク管理の改善を通じて、銀行セクターに年間2000億〜3400億ドル(約30兆〜51兆円)の価値をもたらす可能性がある。
しかし大半の金融機関は、この水準で運用できる準備がまったく整っていない。
AIの運用実装
私は銀行・金融サービス領域での業務を通じ、同じパターンを繰り返し目にしている。企業はAIのパイロット導入には積極的に投資する一方で、その下にある、より困難な運用面の作業を避けがちだ。データは依然として分断され、ガバナンスは一貫せず、責任の所在も不明確なままである。
技術の進化が、組織の変化を上回っている。
OpenTextがスポンサーとなった最新のDigital Banking Report「Agentic AI: Powering the Self-Driving Bank」によれば、金融機関の96%が何らかの形でエージェント型AIに取り組んでいるものの、本番環境への導入に移行したのはわずか19%にとどまっている。
この差は重要だ。なぜなら競争優位は、もはやAIを試すことから生まれるのではない。AIを運用に落とし込むこと(オペレーショナライズ)から生まれるからである。
不正検知、コンプライアンス、業務効率化が主要なユースケースであり続けるのは、データが構造化されており、事業成果が測定可能だからだ。
組織データ
デロイトは最近、AIが最も価値を生むのは、レガシーなプロセスにAIを「上乗せ」するのではなく、ワークフローを再設計する場合であると指摘した。
Digital Banking Reportによれば、コンテンツ、コミュニケーション、取引データをリアルタイムで効果的に接続できると考える金融機関は9%にすぎない。
同じ調査によれば、金融機関の52%は、自社のガバナンス体制がコンプライアンスに準拠したエージェント型AIの導入をサポートする準備ができているかどうかに自信を持てていない。
バンク・オブ・アメリカのAIアシスタント「Erica」は、30億件を超える顧客とのやり取りを達成し、1日あたり約200万件の顧客対応を処理している。
JPモルガン・チェースは、社内プラットフォーム「LLM Suite」を約25万人の従業員に展開し、リサーチ、カスタマーサービス、アドバイザリーのワークフローを支援している。
アクセンチュアは、金融機関がAIを上乗せとして扱うのではなく、技術を中心にワークフローを再設計すれば、銀行の生産性を最大30%押し上げる可能性があると見積もっている。
人材の準備状況
本来もっと注目されるべきなのに、あまり議論されていない課題がある。それが人材の準備状況だ。
多くの金融機関は、AIを運用の転換ではなく技術施策として捉え続けている。だがエージェント型AIは、意思決定の準備のされ方、チームの協働のあり方、顧客関係の管理方法を変える。従業員はもはや単にシステムを操作する存在ではない。AI駆動のワークフローを監督し、検証し、導く役割が増している。
この移行には、組織全体で新たなスキルが必要となる。リレーションシップ・マネジャーはAIによる提案を解釈する自信が求められる。リスク部門はモデルの振る舞いがどのようなものかを可視化できなければならない。オペレーションのリーダーは、自動化されたワークフローとデータフロー全体に対する、より強い監督が必要だ。
Digital Banking Reportでは、従業員の能力開発が金融機関のAI優先事項の中で最下位となり、わずか14%にとどまった。このギャップは長期的なリスクを生む。AI導入に向けて人材を整えられない金融機関は、責任ある形でのスケールに苦しむことになる。
最も強い成果を上げている銀行は、AI変革を技術戦略であると同時に人材戦略としても扱っている。
課題と留意点
機会は大きいが、リスクも同様に大きい。金融機関は世界で最も規制の厳しい産業の1つで事業を行っている。データプライバシー、モデルの説明可能性、サイバーセキュリティ、説明責任をめぐる問いは、引き続き最重要課題である。
エージェント型AIがより多くの責任を担うにつれ、リーダーはイノベーションと監督のバランスを取らなければならない。迅速に進めることは重要だ。信頼を維持することは、それ以上に重要である。
銀行が踏み出すべき第一歩
大半の金融機関に必要なのは、もう一つのパイロットプロジェクトではない。明確な出発点である。
測定可能な価値があり、アクセス可能なデータを備えたビジネス課題から始めることだ。ガバナンスは早期に確立する。ユースケースを拡大する前にデータ品質へ投資する。そして何より重要なのは、最初から事業部門、テクノロジー部門、リスク部門を連携させることである。
最も進展している銀行は、すべてを一度に変革しようとはしていない。一つひとつの成功した導入を積み重ねながら、勢いを築いている。
組織の再構築
金融サービスにおけるAIの議論は、しばしば能力に焦点が当たる。より難しい問いは、運用の準備状況だ。銀行の未来を定義するのは、誰が最初にAIを導入したかではない。誰が最も速く、AIを軸に組織を再構築したかである。



