「システム1」の根底には、政治的行動を突き動かしている3つの根源的な人間の欲求がある。
(1) 安全:自分の周囲の小さな輪を守ること。
(2) 帰属:集団の外ではなく、集団の中にいたいという欲求。
(3) 進歩:明日は今日よりも良くなるかもしれない、自分の努力がまだどこかに通じている、という確信。
人々に「あなたの人生の見通しはもっとよくなると思いますか」「子供たちの未来はもっとよくなると思いますか」と質問して、「ノー」が多ければ、ポピュリストは危機を作り出す必要すらなくなる。ポピュリストは、そこにある不安を指摘するだけでよくなるのだ。
そして、民主的な政治家の多くは、こうした不安に耳を傾けることがない。主流の政治家は、ポピュリズムの事実の誤りを暴いても、それを打ち負かすことはできない。物語は、そもそも事実に依存していないからだ。この根源的な欲求に対して、ポピュリストよりも正直に応え、ポピュリストよりも信頼できる形で、システム1に向けて語りかけなければならない。
——長年の選挙現場の経験から、行動心理学によるポピュリズム分析で特に印象に残るエピソードを聞きたい。
ダニエル・カーネマン、ジョナサン・ハイト、ジョージ・レイコフは有名かもしれないが、現場レベルの分析で最も説得力があったのは、政治学者リリアナ・メイソンと、心理学者カーク・J・シュナイダーだ。三つの印象的なエピソードを紹介しよう。
一つ目は、2023年のオランダの政治討論番組での一場面だ。「慢性疾患を抱えており、医療保険の基礎負担額を支払うことができない」と訴えた一般女性に対して、主流左派政党の党首は、段階的な改革が必要であり4年かかると、丁寧かつ正確に説明した。彼はシステム2に向けて語っていたわけだ。ウィルダースは彼を遮り、女性に直接向き直って言った。「あなたは待てる。彼女は待てない。彼女には今、金が必要なんだ」。ウィルダースが論破したように見え、女性は「気にかけてもらえた」と感じた。よりよい政策ではなく、よりよい語り口を示したわけだ。この討論がきっかけの一つとなって、ウィルダースのPVVは選挙で勝利することになった。
二つ目は、2016年のイギリスだ。EU離脱派は、スローガンを書いたバスを走らせた。「EUへ週3億5千万ポンド、その金を国民保健サービスに回せる」と。イギリス中のファクトチェッカーが、数字も因果も間違っていると指摘した。だが、何も変わらなかった。バスは鮮烈な物体で、感情的なフレームを提示していた。「奴らが我々の金を奪い、病院が苦しむ間にブリュッセルへ渡している」と。システム1がそれを感じ、システム1が投票した。
三つ目は、アメリカだ。トランプは、ワシントンの既得権益者やロビイストの「沼の水を抜く」と約束した。彼自身が権力構造とつながる億万長者であることは棚上げして、自分は部外者だから勝てるのだと、説得力をもって主張した。


