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2026.07.09 11:00

エンジニアのためのサウナ併設オフィス「Mobius Park」がオープン──タマディックが健康経営を徹底する理由

総合エンジニアリング企業のタマディックは、2017年に健康経営を宣言して以来、「人を大切にする経営」を軸に独自の取り組みを推進してきた。その象徴ともいえるのが、2025年6月に愛知県豊田市で開所式を執り行った新拠点「Mobius Park(モビアス パーク)」だ。オフィスや研究開発スペースに加え、ジムやサウナなども備え、エンジニアが心身ともに健やかに働きながら創造性を発揮できる環境を実現した。なぜ同社はここまで働く環境づくりにこだわるのか。その背景にある経営哲学や、エンジニアへの思いについて、代表取締役社長の森實敏彦に話を聞いた。


社員の健康は会社の重要な資産

台形に広がる芝生の中央と外周を囲むシダレザクラの青葉が初夏の光を受けてまぶしい。

6月3日、愛知県豊田市に「Mobius Park(モビアス パーク)」が開所式を迎えた。開かれた広場はまさに“パーク”といった趣きだが、ここは公園ではない。自動車や航空宇宙など幅広い分野を手掛ける総合エンジニアリング企業「タマディック」が開設したオフィスだ。

広場を囲むようにコの字形に建つ3棟の建物は、建築家・坂茂の設計によるもので、外装から内装まで、木材がふんだんに使用されている。3棟はそれぞれオフィス(M1-House)、ものづくり(M2-Lab)、ウェルネス(Wellness-Wing)といった機能に分かれており、エンジニアをはじめとする社員がパフォーマンスを最大限発揮できる環境を整えている。Wellness-Wingにはキッチンやジムを備えるほか、なんとサウナが2室あり、社員は自由に利用することができるという。

なぜタマディックはここまでするのか。それは2017年に「健康経営」を宣言し、それを愚直に実践し続けてきたからだ。代表取締役社長の森實敏彦が述懐する。

「弊社には、かつて社員を事故で亡くすという苦い経験があります。それ以来、社員に事故や怪我をさせないということを強く意識し、安全管理に真摯に取り組んできました。ただ、安全や健康に関する注意を呼びかけても、なかなか行動が変わらない人もいます。健康診断で数値の異常を指摘されても、『分かりました』で終わってしまう。せっかく優秀な人材なのに、生活習慣を改善できなかったために体を壊して働けなくなってしまう姿を見るのは、本当に辛いことです。

会社としてどこまで踏み込むべきか悩む部分もありましたが、嫌われてもいいから伝えるべきことは伝えようと考え、2017年に健康経営を宣言し、『社員の健康は会社の重要な資産である』という考え方を打ち出したのです」

以来、タマディックでは、さまざまな取り組みを行ってきた。健康増進施策として、「健康チャレンジ!」を実施。例えば社員が生活習慣を改善して減量したら、その数字に応じて祝い金が支給される。 

「最初は15%から20%くらいの社員しか参加していませんでしたが、次第に35%を超え、そのころから周囲に影響を及ぼすようになりました。昼食をヘルシーなものに変えたり、ひと駅歩いたりと、健康を意識する社員が増えるようになったのです。今では約70%がチャレンジに参加しています」

また、育児や介護との両立を実現すべく、誰もが休業を取れる制度を整備。育児休業については、男女ともに100%取得している。

さらには、働きがいのある職場づくりを追求すべく、21年に「タマディック名古屋ビル」を建設した。同ビルも坂茂による設計で、CLT(直交集成材)を活用した地上8階・地下1階の木質免震構造オフィスビルだ。

最上階には、日本ではじめて駐日フィンランド大使に認定されたオフィスサウナを備える。ここでの成功体験があったからこそ、Mobius Parkにもサウナが設置されているのだ。

森實がサウナにこだわるようになったのは、自身がその効能を実感したことがきっかけだった。意外にも、その出会いはサウナを題材にした漫画だったという。

「漫画を読んだときは、『そんなに気持ちいいわけがない』と思っていました。でも、たまたま泊まったホテルの大浴場にサウナがあったので試してみたところ、水風呂まで含めて、露天風呂に入るよりもはるかに心地よかったのです。

さらに翌朝、別のホテルのサウナを覗いてみると、有名な俳優や経営者の方々が自然に談笑している場面に遭遇しました。それまで私は、サウナに対して“酔客が集まる場所”という先入観を持っていました。しかし実際には、各業界のトップリーダーの方々も健康習慣として活用し、そこで人とのつながりを築いていた。その光景に大きな衝撃を受けました」

以来、森實は国内外のサウナを訪ね歩くようになり、そのなかで理想形としてたどり着いたのがフィンランド式サウナだった。

「フィンランド式サウナは、長時間利用しても息苦しさが少なく、自然と会話が生まれます。普段は口数の少ない人でも打ち解けやすく、健康づくりとコミュニケーションの活性化を同時に実現できるのです」

こうした体験から、森實はサウナを単なる福利厚生ではなく、人と人をつなぐコミュニケーションの場として捉えるようになった。そして、その価値を社員にも日常的に体感してほしいという思いから、名古屋の自社ビルにオフィスサウナを設置したのである。

現在、このサウナは社員だけでなく取引先も利用できるため、顧客との関係構築の場としても機能している。また採用活動では、インターンシップや会社説明会でサウナをプログラムに取り入れている。肩書や立場を離れたリラックスした環境では本音の対話が生まれやすく、相互理解が深まることで採用のミスマッチ防止や内定承諾率の向上にもつながっている。

すべてはよりよいエンジニア人生のために

同社は、こうした施策を単発で終わらせるのではなく、社員の健康状態を継続的にモニタリングしている。その成果について、森實は確かな手応えを感じている。

「肥満(BMI25以上)の割合であれば、『健康チャレンジ!』参加者は開始時と比較すると20%以上も減り、生活習慣病の医療費の伸び率もマイナスとなり、医療費抑制効果が認められました。」

こうした取り組みは社外からも高く評価され、同社は経済産業省と日本健康会議が認定する健康経営優良法人「ブライト500」に5年連続で選ばれている。そして、その成果は社員の健康だけにとどまらない。

「過去5年間で生産性(一人あたりの売り上げ)は24%向上しました。それに伴い業績も毎年二桁成長を続け、売上高は約1.5倍に拡大しています。生産性向上のためにさまざまな施策を行ってきましたが、結局のところ、社員が健康で、毎日いきいきと働いてくれることが最も大きな原動力なのです」

森實敏彦 タマディック 代表取締役社長
森實敏彦 タマディック 代表取締役社長

その考え方をさらに発展させ、エンジニアに特化した理想的な職場環境として形にしたのが「Mobius Park」である。同施設は「All for Well Engineer Life(すべてはよりよいエンジニア人生のために)」をコンセプトに掲げるが、その思想は創業以来変わらないタマディックの原点にも通じている。

「戦時中、三菱重工で航空機の治具設備の設計に携わっていた祖父は、『エンジニアがエンジニアとして誇りを持って働ける会社をつくりたい』という思いで当社を創業しました。私はその理念を受け継ぐ立場として、この原点だけは守り続けたいと考えています。

エンジニアが生み出した価値を経営者だけが享受するのではなく、エンジニア自身が正当に評価され、適切な報酬を得る。そして家庭を持ち、家族を幸せにしながら安心して人生を歩める会社でありたい。そのための環境づくりこそ、私たちの使命だと思っています」

Mobius Parkが誕生した愛知県豊田市は、日本を代表するモビリティ産業の集積地である。森實は、この拠点が地域産業を支える人材の受け皿となることも期待している。

「豊田市という、日本のものづくりを象徴する場所にこの施設を建設したことには大きな意味があります。これまで以上にお客様との関係を深めるとともに、日本の基幹産業であるモビリティ産業の発展に深くコミットし、共に成長していきたいと考えています」

AI活用が製造業においても急速に進むなかで、森實はあらためて“人の価値”に注目している。

「AIが図面を描き、製品開発を支援する時代はさらに進むでしょう。しかし、それを実際の工場や製造現場で機能させるには、現場を理解し、自らの目で確認しながら判断できる人材が欠かせません。

現実世界には想定外が数多く存在します。その場で状況を理解し、構造を把握し、柔軟に対応できるのは人間です。だからこそ私は、AI時代になればなるほど、現場を知るエンジニアの価値は高まると考えています」

健康経営の実践から生まれたMobius Park。その根底にあるのは、創業以来受け継がれてきた“エンジニアファースト”の思想だ。人材こそが競争力の源泉である――。タマディックの挑戦は、これからのものづくり企業のあり方に一つの示唆を与えている。

タマディック
https://www.tamadic.co.jp/


もりざね・としひこ◎タマディック代表取締役社長。慶應義塾大学卒業後の1996年、外資系IT企業に入社し、営業パーソンとして活躍。2000年にタマディック入社。取締役を経て、02年より現職。著書に『エンジニアになりたい君へ 理工系学生のためのキャリア形成ガイドブック』。

promoted by タマディック / text by Fumihiko Ohashi / edited by Akio Takashiro