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食&酒

2026.06.26 14:45

韓国に労働移民として移住して来た「高麗人」のルーツにはスターリンが関係していた

韓国のウズベキスタン人街といわれる仁川市延寿区にあるレストラン「チャイハナ2号店」で食べたシャシリクやボルシチ。彼らはイスラム教徒でアルコールの提供はないので、ファンタを注文した

スターリンの強制移住がもたらした

高麗人の起源は、1860年に清国とロシアの間で結ばれた北京条約によるロシア沿海地方の領有に始まるといっていい。ロシア帝国による西洋近代都市であるウラジオストクが建設されることで、清国や李氏朝鮮、そして日本も含めた周辺アジアの国々から多くの労働者が極東に渡ったのである。

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かつて訪れたウラジオストクの芸術大学のキャンパスには、19世紀後半、多くのコリア系の人たちが極東に移住してきた姿を力強く描いた絵画が展示されていた。おそらく韓国の留学生が描いたものだと思われる
かつて訪れたウラジオストクの芸術大学のキャンパスには、19世紀後半、多くのコリア系の人たちが極東に移住してきた姿を力強く描いた絵画が展示されていた

ところが、その後ロシア革命を経て成立したソビエト連邦(ソ連)の最高権力者だったヨシフ・スターリンが、1937年、沿海地方在住のコリア系の人たち約17万人を、強制的にカザフスタンやウズベキスタンなどの中央アジアへ移送させた。

当時、朝鮮半島は日本に併合されていたことから、スターリンは彼らを「敵性民族」とみなしたことが理由とされる。彼らは環境の異なる移送先で厳しい生活を強いられながら、現地社会に根を下ろしていったのである。

筆者は20年前に一度ウズベキスタンを訪ねたことがあるが、サマルカンドの市場を歩いているとき、コリア系の女性たちが真っ赤なキムチを売る姿を見たことが印象に残っている。スターリンによる強制移住がもたらしたのはこういうことなのかと思ったものだ。

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その高麗人がいま、韓国に労働移民として戻ってきている。筆者はウラジオストクに行くと、ユーラシア世界がぐっと近づいた気がすると思ったものだが、韓国もなかなかである。しかも、それがスターリンによる悲劇に端を発しているところが大陸的というべきか、驚くほかないのである。

実は、筆者が訪ねたレストランのチャイハナは2号店で、ハムバク村にはもう1軒、別の1号店があった。すでに食事をすませていたので入店しなかったのだが、店の前には、テレビで取材されたことを伝える看板があり、冷麺のような料理の写真があった。

筆者が歩いていて見つけた「チャイハナ1号店」
筆者が歩いていて見つけた「チャイハナ1号店」

もしかして、この店はウズベキスタン料理とともに、高麗人が食べる冷麺を出す店なのだろうか……。そう考えて、帰国後、前述の韓国通の友人にその写真を送って尋ねたところ、彼女は次のように答えてくれた。

「この店は、韓国のOBS京仁テレビが放送する番組で紹介されたことがあり、私も訪ねたことがあります。2024年に公開された韓国映画『ダウレンの結婚(Dauren's Wedding)』の撮影場所の1つでもあったのです。この映画はカザフスタンを舞台にしたヒューマンコメディで、監督が現地で高麗人と知り合った経験から着想を得た作品だといわれています」

チャイハナ1号店の前に置かれた宣伝看板には、筆者の友人が解説してくれた韓国映画『ダウレンの結婚』の撮影場所だったことが書かれていた
チャイハナ1号店の前に置かれた宣伝看板には、筆者の友人が解説してくれた韓国映画『ダウレンの結婚』の撮影場所だったことが書かれていた

そして、彼女が筆者に送ってくれた写真が、そのチャイハナ1号店で友人と一緒に食べたという冷麺の写真だった。

韓国通の友人が同店で食べたウズベキスタン風冷麺の「ククシ」。具材もたっぷりで、見た目がビビンパにも似ている(撮影=韓国通の友人)
韓国通の友人が同店で食べたウズベキスタン風冷麺の「ククシ」。具材もたっぷりで、見た目がビビンパにも似ている(撮影=韓国通の友人)

それはウズベキスタンでは「ククシ(Kuksi)」というそうだ。旧ソ連時代に中央アジアへ強制移住させられた高麗人によってもたらされた、冷麺スタイルの麺料理である。

彼女は「韓国のククス(麺類)がルーツですが,トマトやキュウリなど中央アジアの食材がたっぷりで、甘酸っぱくてさっぱりとしたスープが特徴です」と話す。

これまでガチ中華が日本でローカライズしていくさまを観察してきた筆者は、その話を聞きながら「ウズベキスタンで現地化した冷麺だなんて!」なんてことだろうと思った。

チャイハナ1号店では、ほかにも「マルコフチャ」と呼ばれるニンジンのキムチが食べられるという。高麗人たちが現地で手に入れにくかった白菜の代わりに、身近にあったニンジンを使ってキムチの味を再現したことから生まれた料理だという。

次回、韓国を訪ねるときは、ぜひ味わってみたい。

文・写真=中村正人

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