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アート

2026.06.30 15:00

甲冑1億円の落札が示す「アートの地殻変動」 日本は今、工芸の真価を世界にどう伝えるべきか?

妙心寺・退蔵院の本堂から庭を見る(撮影:著者)

職人とは「職」が「人」である

平岡:西洋的なアートマーケットの視点で見ると、日本の工芸品はアートではなく実用品として扱われ、経済的価値がつきにくいという構造的な課題があります。日本ならではの芸術的価値を、私たちはどう捉え直すべきでしょうか。

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松山:最近、改めて「民藝(民衆的工芸)」という視点が非常に重要だと感じています。世界的なアーティストは大きな注目を集める一方、期待値が高すぎたり常に競争にさらされるといった点で精神的につらい思いをしている人も多い。それに対して民藝に携わる人はアーティストとして注目を浴びることを目的とせず、しかしながら高い精神性を保ち、おだやかな幸せに包まれている。こういう仕事と人生そのものが一体になったような生き方が「本当の意味での幸福」につながっているのではないかと感じるからです。経済的な価値が高いか低いかは一旦置いておくとして、民藝や工芸に関わること自体が、その作り手の「幸福」に直結している点を見逃してはなりません。

浄土真宗では、僧侶ではないけれども、高僧と同じようなレベルの精神状態にある人たちのことを「妙好人(みょうこうにん)」と呼んでいます。こういった人たちはわらじを編んだり家具を作ったり、いわゆる民藝や工芸にかかわる人が多いことが知られています。職人とは「職」が「人」であるという意味だと私は考えています。一生をかけて作り続けている人たちの精神的な成熟度や幸福度は、凄まじいものがあります。

金銭的価値に換算される以前に、その営み自体が「生きる意味」であり「人生そのもの」になっているのです。

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平岡:職人の営み自体が目に見えない価値である——世界に提示すべきはモノだけではなく、その背後にある生き方や思想そのものなのですね。METが「陶芸家の独創性と熟練から生まれる独自性」に注目する理由も、まさにそこにあるように思えます。作ることと生きることが一体化した姿勢が、今、集まっている世界的な注目の本質かもしれません。

臨済宗妙心寺派・退蔵院副住職の松山大耕氏(撮影:著者)
臨済宗妙心寺派・退蔵院副住職の松山大耕氏(撮影:著者)

なぜ世界のリーダーは禅に惹かれるのか

平岡:海外でも禅や日本文化がブームですが、文脈が抜け落ちて誤訳されている部分も多いように感じます。

松山:非常に多いですね。例えば最近、米国のリーダーシッププログラムで「金継ぎ」が流行っているそうです。チームビルディングのためにわざわざ綺麗な茶碗を割り、破片を持ち寄って新しい茶碗をくっつけて作るというのです。それは金継ぎの精神とは全く違いますよね。

禅の世界にやってくる海外のエグゼクティブも、最初は功利主義的な動機を持っています。「リラクゼーションになるのではないか」「ビジネスのパフォーマンスを上げる手段になるのではないか」と。私は最初に必ず「禅はそのための手段ではありません」と突き放します。そうすると7割の人は去っていきますが、残りの3割の人は「なるほど」と耳を傾けます。

平岡:現代のビジネスは、あらゆるものを「何の役に立つのか」という問いに回収しがちです。瞑想にアート、工芸もウェルビーイングも、最終的には生産性を高める手段として語られてしまいます。しかし、禅や日本文化の核心は、むしろそうした手段とは逆のところにあるのかもしれません。

松山:わかりやすいのが、アーチェリーと弓道の違いです。アーチェリーの目的は「矢を的に当てること」ですが、弓道の目的は的を射ることではありません。姿勢と呼吸を整え、自分自身の精神状態を極限まで高める「自己研鑽」が目的です。的に当たったかどうかは、単に自分の精神状態を確認する作業に過ぎません。日本の文化は「いかに自分自身を高めるか」に主眼があり、終わりがありません。

平岡:結果ではなく、あり方。達成ではなく、自己研鑽。ここに、日本文化が持つ独自の価値軸があるのですね。

これは、私自身の体験とも重なります。6歳から20歳まで書道に向き合っていました。もちろん字が綺麗になるという実利はあります。しかし振り返ってみると、毎週約3時間、墨の香りが漂う部屋で、ただ書と向き合う時間そのものが、日常の中で異質でかけがえのないものでした。喧噪から離れ、静かにひとつのことと向き合い続ける。日々とは別の「もうひとつの世界」が自分の中にあるという感覚でした。

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文=平岡美由紀

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