40年前のある日曜日、卵業界の幹部マイケル・I・センサーは、忘れがたい体験をした。
彼は家族とともにカリフォルニア州の大規模な養鶏場を訪れ、孵卵器からヒヨコが生まれてくる様子を子どもたちに見せようとしていた。ヒヨコが孵化すると、作業員がオスとメスを分け、オスのヒヨコをビニール袋を敷いたゴミ箱へ投げ入れていった。センサーはいまでも、「オスのヒヨコでいっぱいになったら、基本的に口を閉じて窒息させていた」という光景を生々しく覚えている。
幼い娘が彼の服を引っ張った。何をしているのか、と不思議がったのだ。「私は娘に、卵産業ではオスは役に立たず、だからこうして処分するのだと説明した。すると、娘は長い間私と口をきかなくなった。本当に個人的にこたえたよ」
米国の卵産業ではいまも、メスのヒヨコは採卵鶏として育てられる一方、オスのヒヨコは大量に殺されている。年間で数億羽に上る。現在の標準的な方法はビニール袋ではなく、回転刃を備えた「マセレーター」と呼ばれる機械を用いることだ。残酷なまでに効率的な工程で、ヒヨコを素早く粉砕する。
だが、こうしたやり方である必要はない。現在、食品会社ヒドゥン・ヴィラ・ランチのシニア・バイスプレジデントを務めるセンサーは、数年前に国際的な業界誌を読んでそのことに気づいた。複数の国でヒヨコの淘汰(culling)に関する規制が導入されたことを受け、欧州では「インオボ・セクシング(in-ovo sexing、孵化前に卵の中で性別を判定する技術)」と呼ばれる技術が実績を積んでいることを知った。ドイツは、商業的に成り立つインオボ・セクシング装置が存在する前の2022年に、ヒヨコ淘汰を禁止した。センサーはすぐにドイツへ飛び、新たな機械を視察した。
2025年7月、米国でもついに、インオボ・セクシングで生産された卵が、ヒドゥン・ヴィラ・ランチのブランド「NestFresh(ネストフレッシュ)」から販売され始めた。そして1年後のいま、NestFreshの卵はすべてインオボ・セクシングによる調達に切り替わっている。センサーは、あの孵化場で娘と向き合った自問の瞬間から40年を経て、この節目を迎えたことに胸を躍らせる。NestFreshにとどまらず、生産者団体ユナイテッド・エッグ・プロデューサーズも、インオボ・セクシング装置が米国の4つの孵化場に導入されたと報告し、これを「今日の卵生産における最も喫緊の課題の1つに対処する重要な前進」と位置づけた。
「技術は非常に速いスピードで進化しています」と語るのは、動物福祉団体ヒューメイン・リーグのシニア・コーポレート・リレーションズ・マネージャー、リズ・ファーガスだ。手法には画像解析、液体分析、さらには匂いに基づく性別判定まである。卵に穴を開ける侵襲的なものもあれば、開けないものもある。ファーガスはこう言う。「勝者となるのは、精度、スピード、自動化、コストで先行する技術です。現時点では、AIを活用したMRI(磁気共鳴画像法)画像解析、ハイパースペクトル(超多波長)イメージング、DNA分析システムのいずれも実用可能です」
米国で最も手頃なインオボ・セクシング技術は「Cheggy(チェギー)」で、卵に穴を開けない方式で1時間あたり2万個超を判定できる。ハイパースペクトル分析は基本的に、発育中の胚の羽毛を調べるもので、羽毛の色はオス胚とメス胚で異なる。Cheggyの機械はドイツ企業アグリ・アドバンスト・テクノロジーズが製造している。米国での課題は、Cheggyが判別できるのは褐色卵(NestFreshのような)だけで、米国の卵は白色が主流だという点にある。
ファーガスは、米国で本格的に普及する可能性が高いのは、処理能力は低くコストも高いが、汎用性に優れる技術だとみている。ドイツ企業オルベムが手がける「Genus Focus(ジーナス・フォーカス)」は、MRIとAIで性別を検出する。今年の新たな資金調達を受け、オルベムは米国での事業拡大を計画している。
インオボ・セクシング技術の選択肢が増える一方で、より早期に性別を検出する能力も向上している。より倫理的であることに加え、性別だけを理由に殺されるヒヨコを育てないことは効率面でも利点がある。「孵化プロセスからオスのヒヨコを早く外せるほど、孵化場にとって経済的なメリットがあります」とファーガスは言う。2024年、ドイツは卵の性別判定を孵卵13日目までに行うことを義務付けた。
分光イメージングのような、さらに先進的な技術は成熟に時間を要する。イスラエルで開発が進んでいるこの遺伝子編集技術は、基本的にオス胚の発育を止めるものだ。ファーガスは「非常に大きな可能性があります。オスが発育する問題そのものをなくせるからです。動物福祉の観点でも、孵化場の観点でも理想的でしょう」と述べる。孵化場が卵の経済価値を最大限回収できるようにもなる。しかし、技術から規制、そして消費者の受容まで、道のりは長い。
消費者の受容という点では、動物福祉におけるこの大きな前進をどう売り込むかもテーマとなる。他の動物福祉ラベルと同様、より「人道的」な方法で生産された卵を説明するラベルは多岐にわたり、ときに紛らわしい。そこにヒヨコ淘汰の代替としてインオボ・セクシングが含まれている場合もあれば、含まれていない場合もある。
NestFreshは、一般的な消費者が「culling(淘汰)」や「in-ovo sexing(インオボ・セクシング)」のいずれにも馴染みがなく、これらの用語には説明が必要になりがちだという調査結果を受け、「humanely hatched(人道的に孵化)」という表現に落ち着いた。センサーは「卵のパッケージに使えるスペースは限られていますから」と指摘する。同ブランドのインオボ・セクシングは、動物福祉認証団体サーティファイド・ヒューメインにより認証済みだ。
全体として、これまでの主な障壁はインオボ・セクシング装置の購入にかかる初期費用だった(機器を収容するために追加の建屋が必要になる可能性もある)。ファーガスによれば、米国の孵化場は現在、技術企業から機械をレンタルし、卵1個あたりの利用料を支払っているという。わずかに高くなるコストは通常、消費者に転嫁される。ファーガスによると、インオボ・セクシングへの切り替えは卵1個あたり約1セントの値上げにつながるが、消費者は(知っていれば)概ね支払う意思がある。シンクタンク、イノベート・アニマル・アグのCEO、ロバート・ヤーマンは「一般の認知度は通常20%未満です」と指摘している。
しかし消費者市場の形成を後押しするため、NestFreshはインオボ・セクシング卵の価格を上げていない。生産コストは1羽あたり50〜75セント上がるにもかかわらず、だ。センサーによれば、米国では現在、供給過剰により卵価格が下押しされているという。さらにNestFreshは、もともと卵の価格帯として高めだった。「これを軌道に乗せ、私たちがこのプロセスを本気で信じていることを人々に示すため、値上げしない選択をしました」とセンサーは語る。消費者需要が伸びれば、いずれ状況が変わることを期待している。
他の地域ではどうか。欧州では規制が技術の推進力となった。本質的に「ドイツがこの技術の市場条件をつくりました」とヤーマンは言う。米国で同様の禁止措置が導入される可能性は低いが、インオボ・セクシング機器に対する税額控除を提案するEGG SAVE法案が、2025年10月に下院へ提出されている。フランスでは補助金がインオボ・セクシングの普及を後押しした。
世界をリードするドイツでは、ヒヨコ淘汰の禁止後、卵の生産量は禁止前よりも増加しているが、多くの小規模生産者が廃業に追い込まれている。インオボ・セクシング技術は2025年にブラジルへ、2026年にオーストラリアへ到達した。ヤーマンは、多くの国が追随すると見込む。「インドのようなコストに敏感な市場では、インオボ・セクシングがわずかでもコストを上乗せするため、普及に時間がかかるかもしれません」とヤーマンは付け加える。「ただしコストは急速に下がり、技術は改善し、孵化場業界も経験を積んでいます。世界のさらに多くの国々でインオボ・セクシングが見られるようになるまで、そう長くはかからないと思います」
全体として、インオボ・セクシングのシステムは本格導入の準備が整っているとファーガスは強調する。「米国ではNestFreshやKipsterのような企業の卵が、すでに店頭に並び消費者が購入できます。つまり米国では、この技術は商業規模で十分に実用的で、利用可能です」。普及は高福祉を掲げる一握りの卵企業に限られているが、ファーガスによれば、ウォルマートでさえ導入の可能性を検討しているという。さらに、インオボ・セクシングで選別された卵を含む米国のペットフードもいまは存在する。
ファーガスの見立てでは、「次の段階は小売業者」である。そして小売業者は、消費者によって後押しされる必要があるかもしれない。問題は、多くの消費者が、卵生産でオスのヒヨコが常習的に殺されていることも、いまはそれを回避できる成熟した技術があることも知らない点だ。センサーによれば、ホールフーズは現在、全米でNestFreshを扱っているが、販売する卵の一部が淘汰なしで生産されるようになったことを大々的に宣伝してはいない。他の小売業者はさらに慎重だという。
前向きな点として、政治や行動の変化の難しさにより多くの動物福祉問題がなお頑固に停滞する一方で、卵産業における不必要なオスのヒヨコ殺処分をついに終わらせる鍵は、技術かもしれない。「解決策がなかったことが、この慣行を長く生き延びさせてきました。しかし解決策はいまここにあり、機能しています」とファーガスは言う。
米国動物虐待防止協会(ASPCA)の企業政策・動物科学担当シニアディレクター、ナンシー・ロールストンも、これは双方にとっての勝利だと同意する。「家畜の苦痛の原因が完全に防げるケースは稀であり、オスのヒヨコ淘汰の終結は、インオボ・セクシング技術のおかげでそれが可能になった例の1つです」とロールストンは述べる。「インオボ・セクシング技術の恩恵を受けるのは動物だけではありません。孵化場の作業員がオスのヒヨコ淘汰に加担しなくて済むようになることは、卵を売買し、非人道的な慣行を支持したくない人々を含む卵業界全体を底上げします」



