だからこそ、彼らはワインのラベルに明確に村の名前を刻みたかった。しかし当時の法律では、ワイナリーが所在する村以外の名前を記載することは許されなかった。そこで彼らが取った行動が面白い。エチケットに「V1BN4(ビジャブエナ)」や「LNCGO(ランシエゴ)」といった、村名を示す暗号のようなコードネームを刻み込んだのだ。法律が改正された今も、彼らはアイデンティティとしてこの暗号ラベルを使い続けている。
さらに彼らは、実質的な単一畑のワインであっても、公式な「単一畑」の認定すら拒絶している。リオハの統制委員会が試飲で格付けを決定する制度に納得していないからだ。「何が特異な畑かは、我々が一番分かっている」というクラウス氏の言葉には、MWを擁するプロ集団としてのプライドが宿っていた。
お墨付きに頼らない、伝統の再定義
ビデオナと同様に、既存の枠組みに縛られず独自の哲学を貫いているのが、同じくアラベサ地区の老舗家族経営ワイナリー、ボデガス・ロリ・カサード(Bodegas Loli Casado)だ。
彼らは樹齢75〜80年という希少な古樹の畑を所有している。D.O.Caリオハの統制委員会は近年、こうした特異な畑を「単一畑(Viñedo Singular)」として公式に認定する新しい制度を整えたが、ロリ・カサドはその申請すら行っていない。
その理由を尋ねると、明快な答えが返ってきた。
「認定を維持するには、毎年、統制委員会のお役所的な官能検査をパスしなければならない。『今年は合格だが、来年は熟成のニュアンスが違うから不合格』などと、他人の物差しで毎年ブランド名を変えさせられるリスクは、ビジネスにおいて致命的なストレスだからです」。
彼らは法律のお墨付きを拒否し、長期樽熟成させたこだわりのワインであっても、あえて一番下の格付けである緑色の「ジェネリコ」ラベルを貼ってリリースしている。
一方で、彼らはアラベサの伝統的な「若飲みワイン(ホベン)」の再定義にも情熱を注いでいる。リオハではかつて、ボジョレー・ヌーボーでおなじみのMC法(マセラシオン・カルボニカ)を用いた日常酒が主流だったが、その原点の味を、彼らは徹底した手間をかけて磨き上げる。ぶどうの自重だけで自然にこぼれ落ちる最もピュアな果汁と、足踏みによって丁寧に搾られた果汁、そしてプレス機による果汁。これら3種を緻密にブレンドし、さらに法的に認められた15%の白ぶどうをブレンドすることで、フレッシュさを出し、渋みを滑らかに仕上げる。かつての伝統手法を現代の精度でアップデートし、新たな付加価値を生み出しているのだ。


