熟成重視から、テロワールへの回帰へ
ここでリオハワインのラベルによく表記されている「クリアンサ」や「レセルバ」といった格付けについて、少し丁寧に紐解いてみたい。
これらの格付けを決めるのは、ぶどうが育った畑の格ではなく「熟成期間の長さ」だ。225リットルのオーク樽と瓶の中でワインを寝かせる時間が長いほど、「クリアンサ」から「レセルバ」、「グラン・レセルバ」と名前を変え、価格も上がっていく。分かりやすい基準である反面、どれほど優れた単一畑のぶどうを使っても、規定の条件に満たなければ、一律で格下とされる熟成規定なしのカテゴリー(ジェネリコ)に分類されてしまうのだ。
この熟成期間至上主義に対する反発と、テロワール(畑の個性)重視へのパラダイムシフトは、過去数十年という歳月をかけて蓄積されてきたうねりだ。その筆頭が、リオハの格付け制度から完全に離脱したアルタディ(Artadi)などの先駆者たちである。彼らの挑戦によって、「リオハでも単一畑や村の個性を表現できる」という意識が業界に定着したといえるだろう。
たとえば、ビジャブエナ村に拠点を置くビデオナ(Bideona)は、土地の個性をワインに映す造り手だ。同ワイナリーは、スペインでは極めて珍しいリスク分離型の合弁モデルを敷いている。醸造施設を所有するのは、三つ星レストラン「アズルメンディ」に併設されることでも知られる地元の名門ゴルカ・イサギレ。一方で栽培からマーケティングまでの運営全般は、マスター・オブ・ワイン(MW)のアンドレアス・クバック氏とサム・ハロップ氏が率いるプロフェッショナル集団、ペニンシュラ社が担う構造だ。重い不動産リスクを負わずに、アジリティ高くクオリティの追求に特化できるこの仕組みこそが、彼らの強みである。
ビデオナの畑に立つと、ぶどうを取り巻く生命の息吹を五感で感じることができる。「ここは社内で“Spa”と呼ばれているんだ。心が落ち着くエネルギーのある場所だから」。案内してくれた輸出マネージャーのクラウス・アンデルセン氏が話すとおり、除草剤や化学農薬で茶色く無機質な畑の隣で、彼らの畑だけは緑の草木が生き生きと茂るオーガニックな生態系を保っていた。
土壌の表現をワインに正確に翻訳するため、醸造プロセスは現地で「クレイジー」と評されるほどの緻密さを極める。小規模な区画ごとの個性を見極めるため、年間約100回にも及ぶ小ロットの仕込みを個別に行う。それぞれの個性を生かしながら、まるで緻密なパズルを組み立てるようにブレンドを施していくのだ。


