ミッションステートメントと不変の目標との違い
「暮らしを豊かにする」(enriching lives)という言葉は、クックが世界業務運営担当としてアップルに入社して間もない2001年頃から同社の社内用語として使われ始めた。
スティーブ・ジョブズと当時小売部門を率いていたロン・ジョンソンは最初のアップルストアを立ち上げていた。あるインタビューでジョンソンはこう語っている。「(アップルストアの)使命は人々の暮らしを豊かにすることだ。それだけだ」。
このシンプルな理念はクックに強い印象を残した。そしてCEOに就任した後、クックはこの言葉を繰り返し口にするようになった。
CEO就任後の最初のインタビューの1つで、クックはアップルの哲学と自身の意思決定の指針となるビジョンについて説明した。「アップルの社員はとてもシンプルな考え方をしている」とクックは米紙ロサンゼルス・タイムズに語った。「私たちは世界最高の製品を作り、人々の暮らしを豊かにすることに注力している」。
多くの企業が忘れられやすいミッションステートメントを掲げる一方で、アップルは不変の目標を打ち出した。クックはそれを世間に知って欲しかったのだ。
2019年には投資家たちはアップルを成長する余地が限られた成熟したハードウェア企業として見なしていた。そこでクックは再びアップルの不変の目標を持ち出し、なぜアップルが新たな製品やサービスを通じて健康・ウェルネス分野に参入するのかという大きなストーリーを語った。
CNBCのジム・クレイマーとのインタビューでクックは、Apple Watchのような製品を通じたアップルの野心を方向転換ではなく同社の目的の延長線上にあるものと位置づけた。
「将来振り返ったときに『アップルが人類にもたらした最大の貢献は何だったか』と問うなら、それは健康に関するものになるだろう」とクックは語った。「当社の事業は常に人々の暮らしを豊かにするものだ」。


