気が付くと、いつもの道から自動販売機が消えている――。日常の何気ない変化は、日本の清涼飲料業界が直面する過酷な生き残り競争を静かに物語る。
業界最大手のコカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス(コカ・コーラBJH)もまた、ドル箱だった自販機事業の逆風に苦しみ、近年、度々赤字を計上。しかし、痛みを伴う改革により、過去3年間で事業利益を約390億円改善させている。
そのV字回復の指揮を執ったのが、2026年3月、同社初の女性副社長に就任した荷堂真紀だ。外資系IT企業出身で、5人の子を育て上げた母でもある荷堂は、いかにして巨大組織の聖域に切り込み、稼ぐ力を取り戻したのか。
「数の論理」からの脱却、業界トップが描く自販機の未来
かつて自動販売機は飲料メーカーにとって、商品を定価販売できる高利益率のチャネルだった。しかし、コンビニの台頭やコロナ禍の外出自粛などによって稼働率が低下。さらに設置・維持費の高騰や補充人員の不足が重なり、採算割れとなるケースが増加した。その結果、飲料の自販機台数はピーク時(2014年)の247万台から年々減少。25年には、ついに200万台を割り込んだ(195万台)。
業界2位のサントリーはグループ内の自販機関連事業を再編し、強化しているほか、ダイドーは27年の第一四半期中に不採算の約2万台を撤去する計画を発表。伊藤園は26年3月、自販機事業を子会社に移管し、直運営を終了する方針を明らかにした。
しかし、コカ・コーラBJH副社長の荷堂真紀は、厳しい市場環境を前に強気な姿勢を覗かせる。
「30年、40年前に自販機が担っていた『すぐ買える便利さ』は、今やコンビニなどにシフトしつつあります。しかし、業界各社が数の論理で撤退や効率化を余儀なくされているこの状況を、当社では『最大のチャンス』と捉えています」
コカ・コーラ社製品の日本での製造・販売・配送などを担うコカ・コーラBJH。1960年代から地方に存在していた17社の地域コカ・コーラボトラーが長年にわたり統合を繰り返し、17年に国内販売量の約9割を担う企業として誕生した。
当時、同社では統合された各社が持ち込んだ企業文化が混在。さらに、長年にわたる地域の取引先との関係やリベート依存度の高い営業スタイル、不採算の自販機事業などが聖域として残され、利益を圧迫していた。荷堂は、この巨大統合による過渡期に執行役員として同社に参画し、改革を進めていった。
中でも深刻だったのが、国内トップの約65万台を擁する自販機事業だ。23年、最高経営戦略責任者(CSO)として経営の中枢にいた荷堂は、同社が中期経営計画「Vision 2028」を策定するにあたり、全社の戦略立案をリードした。
同社は、収益性の低い自販機を整理する事業の構造改革に踏み切った。その結果、25年上半期決算において、ベンディング事業に対して「881億円」という巨額の減損損失を計上し、資産価値を切り下げた。これにより、同年通期での最終損益は507億円の赤字となった。一方で、減価償却費が前年比で58億円減少。事業利益が前年比2倍の245億円に拡大する要因となった。



