ここで特に関連するのが、2つのメカニズムだ。一つ目は遺伝的浮動(genetic drift)だ。これは、個体群内で形質がランダムかつ非選択的に変動する現象のことだ。ある形質が生存に役立たず、かつ害にもならない場合、その形質が消え去る圧力は生じない。そのため、ただ偶然によって、世代を超えて存続し得るのだ。耳たぶが存在する理由について、これが最も簡潔な説明だ、と複数の研究者が提唱している。つまり、耳たぶが出現し、害をもたらさなかったため、そのまま残ったということだ。
二つ目は、スティーブン・ジェイ・グールドとリチャード・レウォンティンによって進化生物学に導入された「発生学的スパンドレル(developmental spandrel)」という概念だ。スパンドレルとはもともと、四角い壁にアーチ型の窓をつけたときにできる、壁とアーチのあいだの三角形の部分を指すが、発生学的には、自然選択の結果として生じたものではなく、ほかの発生過程の偶発的な結果として現れる「構造上の副産物」を指す。
耳たぶは実質的には、胚発生の過程で、哺乳類の耳の組織が成長・分化していくときの副産物と言える。何らかの目的のために「設計」されたことは一度もないまま、より重要な遺伝的プログラムに便乗して形成されたものにほかならない。
これは、知的に謙虚にならざるを得ない領域と言える。我々は、解剖学的構造のすべてに目的があるわけではないことを受け入れるよう求められている。生物学では、少なくとも時折、理由や理屈が存在しないことがあるのだ、と。
耳たぶの遺伝子が、病気について教えてくれること
20世紀の大半にわたって、耳たぶの付着形態(耳たぶが頭部から離れているか、それとも密着しているか)に関する遺伝学は、単純なメンデル遺伝の典型例として用いられてきた。つまり、1つの遺伝子、2つの対立遺伝子、優性対劣性という構図だ。これはすっきりした説明だった。しかし、それは誤りでもあった。
2017年に『The American Journal of Human Genetics』で発表されたゲノムワイド関連解析で、ヨーロッパ系、ラテンアメリカ系、中国系の祖先を持つ7万4660人の耳たぶの付着形態が分析された。その結果、耳たぶの付着形態は単一の遺伝子によって制御されているわけではないことが明白に示された。それは、少なくとも49のゲノム領域の累積的な影響によって形作られる「多遺伝子性形質(polygenic trait)」だったのだ。
特定された最も重要な遺伝子座には、EDAR、SP5、ADGRG6、PAX9が含まれていた。これらは、歯や毛包、頭蓋顔面構造の形成など、幅広い発生過程に関与する遺伝子群だ。ヒト胎児の耳組織と、マウス胚の鰓弓(さいきゅう)組織に対するRNAシーケンシングにより、これらの遺伝子の多くが、耳の発生過程で活発に発現していることが確認された。その結果、遺伝的関連性が単なる統計的なノイズではなく、実際の生物学的活動と結び付いていることが示された。
研究チームは、この研究全体の見方を一変させるような知見を指摘した。耳たぶの付着形態のような、一見些細で機能のない形質の遺伝的構造を理解することは、耳の発達の根底にある分子的経路を、より広範に解明する手がかりとなり得る。これには、耳の形成異常も含めた多くの遺伝性症候群において、何が問題となっているのかを解明することも含まれる。
このすべてに、何か教訓があるのかもしれない。進化は、耳たぶを特定の機能のために最適化したわけではない。しかし、耳たぶの形を決定する遺伝子、つまり、耳たぶが垂れ下がるか、顎にぴったり沿うかを決定する多遺伝子ネットワークは、極めて重要な発生プログラムに組み込まれている。耳たぶの多様性を研究することは、耳の形態形成、頭蓋顔面の発達、そして先天性構造異常の遺伝学を解明する手がかりとなる。
つまり耳たぶは、謎というより、むしろ「鍵」のようなものなのかもしれない。それ自体よりも、はるかに大きな何かを解き放つ鍵だ。厳密に言えば何もしていない小さな組織にとっては、悪くない役割と言えるだろう。


