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食&酒

2026.07.10 16:15

女人禁制の秘密結社だった? スペイン・バスクに美食倶楽部100以上ある理由

テイスティングで供されたピンチョスも一つ一つが美味

テイスティングで供されたピンチョスも一つ一つが美味

5月のスペイン・バスク地方。眩しい太陽の光が、湿り気を含んだ新緑を鮮やかに照らし出していた。森の中にひっそりと佇むチリーダ・レク美術館の庭には、海岸のモニュメント「風の櫛」でも知られる巨匠の鉄の彫刻が、錆びた肌を空に向けて点在している。かつてこの地は、ヨーロッパ有数の鉄鋼業と造船業を誇る重工業の拠点だった。この無骨な鉄と造船の街が、いかにして世界有数の美食都市へと変貌を遂げたのだろうか。

(記事末に「初めて書籍を執筆してみて 2 ━━ジャンルを超えるからこその難しさと、自らの無知」掲載)


大航海時代を支えたリンゴ酒

バスクの食文化の重層性を物語る、象徴的なエピソードを現地で聞いた。

16世紀の大航海時代。マゼラン艦隊の一員として人類初の世界一周を成し遂げたフアン・セバスティアン・エルカノは、バスク地方ゲタリアの出身だ。当時、何カ月も海の上を漂うヨーロッパの船乗りたちを苦しめたのは、嵐や戦といった目に見える脅威だけではない。じわじわと船員の体をむしばむ壊血病だった。その一方で、エルカノの故郷バスク地方では、大西洋を越えて北米沖まで命がけの捕鯨に向かった船乗りたちが、なぜかこの病に倒れることが少なかったという。

秘密は、彼らが積んでいた樽の中身にある。バスク人たちは腐敗しやすい水の代わりに、大量のシードラ(リンゴ酒)を船に積み込み、1日に数リットルも飲み干してビタミンを補給していたというのだ。

バスクのシードラは、100種類以上存在する土着リンゴの中からブレンドし、無濾過・無添加、非加熱で造られる100%地元産のナチュラルなお酒だ。ブドウの糖度に対し、リンゴの糖度はその半分程度。酵母が分解する糖分が少ないため、低アルコールと微発泡、シャープな酸味が特徴だ。

現地にはTxotx(チョッチ)と呼ばれるシードラの伝統的なお祭りがある。毎年1月、新酒ができると、人々は醸造所(シドレリア)に集まり、巨大な木樽の小さな穴から勢いよく飛び出すシードラを、グラスを低く構えて直接受け止める。少しずつ注いでは飲み、名物のチュレタ(炭火焼ステーキ)を喰らい、グラスが空になればまた樽へ向かう。身分や階級に関係なく、全員が同じ樽から同じ酒を分け合うチョッチは、バスク人の根底にある平等主義と、春の訪れを祝う、地域に深く根付いた文化だ。

「チョッチ!」の掛け声とともに、樽から勢いよく飛び出すシードラを列をなして受け止める。
「チョッチ!」の掛け声とともに、樽から勢いよく飛び出すシードラを列をなして受け止める。一番左は日本ガストロノミー協会会長 柏原光太郎氏(後述)

このバスクの伝統的な飲み物で、グローバル市場を切り拓いている注目の造り手が、トロサ郊外のイサステギ(Isastegi)だ。物理学と工学を修めた理系兄弟が率いる同社は、オーガニックの缶入りシードラという現代的なフォーマットを生み出し、アメリカのクラフトビール市場に進出して成功を収めている。伝統を重んじながらも、グローバル市場のニーズを的確に捉える彼らのアプローチには、学ぶべき点が多い。

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文=水上彩 編集=石井節子

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