欧州が、データやデジタルインフラを自前で管理する「技術主権(Sovereignty)」の確立へ向けて動きを加速させている。ルクセンブルクで開催されたイノベーションイベント「NEXUS Luxembourg 2026」では、米国や中国への過度な依存から脱却すべく、独自の基準と価値観を共有する欧州企業を重用する戦略が議論の中心となった。域内の自由な人やモノの移動を保障する「シェンゲン条約」の生誕地である同国は、国境を越えた高い人材流動性を同イベントを通じて極大化し、自らをイノベーション創出の結節点に位置づけるという、したたかな国家戦略を描いている。
欧州の強い危機感と独自の技術主権の構築
会議の冒頭、ルクセンブルクのフリーデン首相は英フィナンシャル・タイムズ紙の見出しを引用し、強い危機感を露わにした。「アポロとブラックストーンによる350億ドルのAI投資」「アップルのAI発表」といった米国主導のニュースが紙面を飾る一方で、そこに欧州の存在感は完全に欠落していたからだ。「欧州は自らAIを活用し、ルールを作らなければならない」と訴え、「主権とは、AI時代においてはデータやクラウド、モデルを自分たちでコントロールすることだ」と明確に定義した。同国政府はすでに、欧州の有力AIスタートアップであるミストラルAI(Mistral AI)と全政府的な契約を結び、法案の理解促進や起草支援といった行政サービスの中核に組み込む実証を進めている。
オンラインで登壇した欧州委員会のベステアー上級副委員長は、「欧州には米国より人口当たり30%多くのAI技術者がいる」と人材面における絶対的な優位性を強調した。その上で、半導体のサプライチェーンを強化する「半導体法(Chips Act)2.0」や「AI大陸行動計画(AI continent action plan)」といった包括的な政策パッケージを準備していることを明かした。これにより、欧州を単なるAIの規制当局としてではなく、開発と社会実装の強固な中心地へと押し上げる方針を表明した。



