およそ4000年前の青銅器時代以来、錫(スズ)への需要がこれほど強く、価格がこれほど高くなったことはない。3週間前には1トンあたり5万8900ドル(約948万2900円。1ドル=161円換算)という過去最高値に達した。
かつての時代には、錫と銅の合金で作られた青銅製の道具や武器が錫の主な使い道だった。これに対し今日では、コンピューターの回路基板で金属部品を接続するのに使われるハンダが、この古い金属の新しい市場となっており、電子機器における「接着剤」という異名を錫にもたらしている。
AIデータセンターのハンダ需要が価格を64%押し上げ
人工知能(AI)データセンターは、錫を多く含むハンダへの需要を一気に押し上げた。最新の健康規制のもとでは、このハンダは鉛フリーでなければならない。
ハンダは今日の錫にとって最大の市場であり、ブリキ(錫めっき)などその他の用途と合わせて、年率3.5%の需要増を牽引している。これは、推定3%の供給増を上回るペースだ。
この需給の不均衡こそが、錫がこの12カ月で1トンあたり約3万3000ドル(約531万3000円)から64%上昇し、ロンドン金属取引所(LME)における直近の取引で1トンあたり5万4185ドル(約872万3785円)まで上がった理由を、最もよく説明している。なお、これは今月初めの最高値からはわずかに下がった水準だ。
各国政府が錫を重要金属に指定、中国の支配を懸念
需給が逼迫し、電子機器で重要な用途を持つこと──これは、錫が多くの政府によって重要金属(クリティカルメタル)に指定されている理由でもある。各国政府は、重要な資源をめぐる中国の支配的な立場を懸念しているのだ。
この錫ブームでこれまでに最大の恩恵を受けているのが、インドネシア証券取引所に上場する政府系鉱山会社、PT Timah(PTティマ)である。
ティマの株価はこの12カ月で260%上昇した。この際立った好調ぶりは、政府が違法採掘と錫の密輸を取り締まる過程で没収した錫の採掘・製錬事業の譲渡先となったことで、さらに後押しされた。
同様に株価が大きく動いている様子は他の証券取引所でも見られ、オーストラリアもその1つだ。錫関連銘柄であるMetals X(メタルズX)はこの12カ月で160%上昇し、Elementos(エレメントス)は270%上昇した。
錫は生産量が少なく、リスクの高い国に供給が偏る
錫の異例の高値は、その生産量が比較的少ないことに大きく起因している。錫は、いわゆるベースメタル(汎用非鉄金属)の中で最も生産量が少ない金属に位置づけられ、世界の年間生産量は推定で年37万トンと、銅の2300万トンに比べるとごく少ない。
希少性が価格を押し上げているのに加え、錫の価格は、供給が中国、ミャンマー、インドネシアといった比較的リスクの高い一握りの国々に偏っていることからも恩恵を受けている。これらに、オーストラリア、ペルー、ブラジル、コンゴ民主共和国がより小規模な供給国として加わる。
高値がイギリスなど各地の旧鉱山の再稼働を促す
錫の高値は、世界各地で旧鉱山の再稼働の試みを後押ししている。その中にはイギリスも含まれている。イギリスのコーンウォールとデボンにある錫鉱床は、2000年以上前にローマ人の鉱夫によって採掘されていた。
コーンウォールで最も古い鉱山の1つであるSouth Crofty(サウス・クロフティ)は、北海岸のセント・アイブス近郊にあり、ロンドン証券取引所に上場するCornish Metals(コーニッシュ・メタルズ)によって再開発が進められている。
供給の逼迫と、電子機器向けの安全なハンダに対する急速な需要増という組み合わせこそが、錫価格を高止まりさせ、場合によってはさらに上昇させ続けると見込まれる要因だ。ただし、かつて錫が鉛に取って代わったように、新たな代替材料が登場すれば、状況は変わり得る。



