最近のArtemis IIミッションの成功、そして月を狙うSpaceXのIPO構想により、深宇宙探査の現実味はかつてなく増している。そこで浮上するのが「宇宙で宇宙飛行士に何をどう食べさせるのか」という問いだ。
NASAのArtemis計画は、より長期の宇宙旅行と居住に向けた基盤を整備している。2030年代のできるだけ早い時期に実施され得る、火星への初の有人ミッションもその射程に入る。同時に、SpaceX、Blue Origin、Virgin Galacticといった民間企業が宇宙へのアクセスコストを下げ、長期ミッションを維持するために必要な貨物を送ることを可能にしつつある。それでも補給のコストは、深宇宙探査における最大級のボトルネックの1つであり続ける。
火星への往復には約900日を要する。その期間、6人の乗員には約1万kgの食料が必要だ。この量を減らすため、Deep Space Food ConsortiumやNASAの生物・物理科学部門などが、宇宙で食料を生産するための新たな技術的解決策を模索している。さらに付随的な効果として、これらの革新的アプローチは、増え続ける世界人口にどう食料を供給するかという地上の課題解決にも寄与し得る。
光合成を「ハック」する
従来の農業には広大な土地と豊富な日光が必要だが、深宇宙ではそのどちらも明らかに限られる。米国の国土の半分以上は農業目的に使われている。植物が太陽エネルギーの1%未満しか食べられるカロリーに変換できないという事実は、特に宇宙船、月、火星のように光子(フォトン)が限られる環境では、作物収量の大きな制約となる。生物学で誰もが学ぶように、植物は光子を用いて空気中の二酸化炭素(CO2)を糖とエネルギーに変換し、それによって成長する。この過程が光合成だ。ところが近年、一見すると基本原理に思えるこのパラダイムに疑問を投げかけ、光合成を介さずに植物のエネルギー効率を高める方法を探る科学者もいる。
カリフォルニア大学リバーサイド校で化学・環境工学の教授を務めるロバート・ジンカーソンは、暗闇で植物を育てる方法を見いだした。彼のチームは、セントルイスのワシントン大学でフェン・ジャオが率いるグループとともに、光を使わずに大気中のCO2を直接、植物バイオマスへ変換できる新領域「電気農業(electro-agriculture)」を切り開いた。
この手法は2021年、NASAとカナダ宇宙庁が支援したコンペティション「Deep Space Food Challenge」の一環として開発された。中核となる技術は2つ。CO2を酢酸(acetate)に変換する「電解装置(electrolyzer)」と、その酢酸を利用して光のない環境でも成長できるよう遺伝子改変された植物である。こうした直接の電気化学変換は従来の農業よりエネルギー効率が高く、特に人工光下の屋内栽培において重要性が増す。
「植物を屋内で育てる場合、まさにそこで私たちのプロセスが真価を発揮する」とジンカーソンは説明する。「垂直農場や温室のような制御環境では、電力を使ってLEDでエネルギーを光に変換するのは最も効率的な方法ではない。植物はそのエネルギーの大半を無駄にしてしまうからだ」
光合成の代わりに、植物に酢酸をエネルギー源として使わせるのは容易ではない。そのために科学者たちは、マルチプレックスCRISPR編集により植物の代謝を組み替えた。種子は地中にある間、炭水化物や脂肪などの貯蔵栄養を使って成長する。しかし芽生えが日光の下に出ると、光合成へ切り替わる。CRISPRは、種子の発芽に備わる休眠状態の代謝経路を再び目覚めさせることを可能にする。
当初、ジンカーソンのチームはこのアプローチを植物ではなく、暗所で育てたキノコ、酵母、藻類で試験した。この方法で効率が18倍に高まると算出している。また、暗所で育てたレタス、トマト、ピーマンなどの植物が、炭素13(炭素の重い同位体)で標識した酢酸を組織に取り込めることも示した。酢酸を与えた植物は生存したものの、エネルギー面の利得は、サイズの成長を可能にするほど高くはなかった。
チームは、酢酸をバイオマスへ変換する効率を高めるべく植物の遺伝子を改良し続けており、昨年は30日間の実験として国際宇宙ステーションでそれらを試験した。これと並行してジンカーソンは、カリフォルニア大学リバーサイド校の教授マーサ・オロスコ=カルデナス、NASAケネディ宇宙センターのプログラムマネージャー、ジョイア・マッサと協働し、葉や茎を小さくしつつ果実をより多くつけるよう設計された、省エネルギーの「SPACEトマト」(Small Plants for Agriculture in Confined Environmentsの略)の開発も進めている。
宇宙発のイノベーションを地上へ持ち帰る
宇宙で食料を育てる際の課題は、限られた空間と光だけではない。重力がない環境では、水やりですら工学上の難題となる。熱と水分が葉、茎、根の周囲に滞留し、さらに土壌へ酢酸を補うことは微生物汚染のリスクを増大させる。
NASAの研究者たちは、この問題を解決するための特殊な「plant pillows」を設計した。米仏のバイオテクノロジー企業Interstellar Labは別のアプローチを打ち出している。同社は、空気、水、栄養を再循環させ、植物やキノコ、さらには昆虫の栽培を支える閉鎖循環(クローズドループ)システムを開発中だ。Interstellar Labは2024年のDeep Space Food Challengeで優勝している。次の野心は、サン=テグジュペリの著作にちなんで「Mission Little Prince」と名付けられたもので、月でバラを育てることだ。
これらのイノベーションは当初、宇宙探査を可能にするために設計されたものだが、人口密集地、過酷な環境、あるいは災害時といった状況での食料生産を支えることで、地上における食料安全保障の問題にも寄与し得る。酢酸の補給は、これまでおおむね成功してこなかった垂直農法に代わる可能性があり、さらに農地を奪い合うことなく、医薬品やワクチン、その他の高付加価値成分を生産する「工場」として植物を活用する道も開く。
「100年から200年後、私たちの農業はまったく違う姿になっているだろう」とジンカーソンは言う。「高度に制御された環境で食料を生産できるようになり、それははるかに持続可能になる。例えば、植物全体ではなく、私たちが食べる部分だけを生産できるようになるかもしれない」
野心的に聞こえる。しかし考えてみれば、今日当たり前だと感じているイノベーションのほとんどは、当初は「ムーンショット」として始まったのだ。



