既存の政治への失望が「アウトサイダー」を強くする
真山:制度疲労が進み、国が弱くなっていくと、人びとは複雑な説明よりも、強い言葉で言い切ってくれる存在を求めるようになります。こんなに苦しいのは誰かのせいだ、と言ってほしくなる。ある種の救世主を待つようになるのです。
トランプが始まりのように見えるかもしれませんが、日本では安倍晋三さんの政治に似た兆候が先に現れていた面もあると思います。リベラル系メディアや憲法学者を批判対象として前面に出し、これまで公的な場では抑えられていた反リベラル的な言葉を、政治の言葉として通用させていった。その積み重ねのなかで、この20年ほどで、政治の場で許される言葉の範囲が変わっていったように感じます。
三牧:いま各国で起きている政治変動は、「既存政治への失望」に基づく反応だと思います。アメリカだけでなく欧州でも、既成政党への不満を背景に、反既成政治を掲げる勢力や急進右派が伸びている。右も左も中道も、既存の政治家ではもうダメだと思われたときにアウトサイダー、「外から来た人」が強くなります。
トランプはまさにそうです。不動産業界やテレビの世界から来た人物で、政治経験がないことがむしろ武器になった。腐敗した政治に斬り込める「外の人間」だというイメージを作り上げました。
真山:アメリカという国は、ルールを作るのが得意ですよね。ルールを作るのが得意ということは、敵を作るのが上手いということでもあります。
そして「敵」を設定することで、支持者の一体感を醸成する。移民、マイノリティ、人種的公正を求める運動、中国のような外国勢力などが、時代ごとに「自分たちの生活や秩序を脅かすもの」として語られてきました。そうした構図があると、人びとは自分を「正しい側」「守られる側」に置きやすくなるわけです。
アメリカのZ世代が「社会主義」に惹かれる理由
三牧:いまアメリカでは、若い世代のあいだで社会主義への抵抗感がかなり薄れてきています。
ニュースメディアのAxiosと若者専門の調査会社Generation Labが2025年に大学生を対象に行った調査では、社会主義に肯定的または中立な学生が3分の2に達し、資本主義の4割を大きく上回りました。また同じ年に行われたリバタリアン系のケイトー研究所と調査会社YouGovの共同調査では、18〜29歳の約3分の1が共産主義にまで好意的だという結果も出ています。
ただし、いまのアメリカの若者が求めているのは、冷戦期のソ連のような国家体制ではありません。水、食料品、住まい、交通、医療、保育といった日々の暮らしに必要なものは、しっかり人々に行き渡るべきではないかということです。
家賃が払えない。医療費が高すぎる。教育費も高い。働いても生活が安定しない。あまりに陰鬱な現実が広がっているために、「いまの資本主義はおかしい」と感じる人が増えているのです。
ニューヨーク市長のゾーラン・マムダニが支持を集めているのも、そうした文脈からです。彼が訴えているのは、毎月の生活費をどう抑えるか、誰もが人間として尊厳ある生活をいかにして送るか、という問題です。市内を走るバスの運賃を無料にする。対象を絞って家賃の引き上げを止める。保育の負担を軽くする。市が関与する食料品店で、食料品を安く買えるようにする。いずれも、都市で暮らす人の生活に直結する政策です。
アメリカには凄まじい格差があり、マスクのようなわかりやすいアイコンがいる。だから、それに対抗するために連帯や社会主義といった言葉が出てくるし、マムダニのような政治家も生まれるわけです。

真山:むしろ、日本人はまだマスクに憧れていますよね。停滞した社会を変える突出した個人。既存の企業や行政ではできないことを、強引にでも実現してしまう人。アメリカではすでに問題の象徴になっている人物に、日本のビジネスパーソンはいまも自分を重ねている。


