大きな技術革命は既存の経済指標がその変化についていけるのかという疑問につながることが多い。人工知能(AI)の場合も例外ではないが、そうした懸念は的外れだ。
公式統計では捉えられない莫大な経済価値をAIが生み出していると主張する論評が目下相次いでいる。米スタンフォード大学のエリック・ブリニョルフソンらの研究チームは、従来の国内総生産(GDP)では見落とされている無料のデジタル商品が生み出す消費者余剰を捉えるため、「GDP-B」という補足的な国民経済計算を提案している。また、米シンクタンクのピーターソン国際経済研究所による最近の分析では、品質調整後のAIの生産量が年間2000%を超えるペースで増えていると推定している。半導体調査会社SemiAnalysis(セミアナリシス)の論考では、AIが産業革命規模の変革を引き起こしており、その結果、既存の国民経済計算では構造的に捉えられない「ダーク・アウトプット(数字として現れない生産)」が生じていると論じられている。
これらの主張はその出発点や目的こそ異なるものの、同じ診断エラーを指摘している。GDPの問題として扱っているが、根本的な問題は物価指数の算出方法にある。この区別は重要だ。というのも、適切な解決策は解決しようとしている問題によって異なるからだ。GDPの範囲を拡大したり再定義したりすることで測定の問題を解決しようとするのは、不必要であるだけでなく逆効果だ。本来正しく理解すればGDPの現象とは根本的に異なる影響を取り込もうとするあまり、国の所得を測るものとして理解されている安定した指標を歪めてしまうからだ。
問題は物価指数
GDPとは、一定期間に経済圏内で生産された最終財・サービスの市場価値のことだ。名目GDPはそれらの価値をその時点の実際の市場価格で算出したものだ。実質GDPは名目GDPを物価指数で調整し、インフレの影響を取り除くことで、生産されたものの量や品質の変化を反映する指標となる。この調整は統計の専門家が価格変化をどのように扱うかだけでなく、商品やサービスの質の変化をどう考慮するかにも依存する。質調整の問題は単に支出や稼ぎ、生産を問う名目GDPそのものにあるのではなく、むしろそれらの名目値を実値に換算するために適用されるデフレーターにある。
米国の消費者物価指数諮問委員会であるボスキン委員会は1990年代にこの問題に注目し、消費者物価指数(CPI)における上方バイアスの原因をいくつか特定した。代替バイアス(消費者がより安価な代替品に切り替えること)、販売店バイアス(買い物客がディスカウント店へ移ること)、新製品バイアス(新製品が指数に反映されるのが遅れること)、品質変化バイアス(製品の改良が価格上昇として誤って扱われること)などだ。
統計機関は30年近くにわたってヘドニック回帰(製品特性の変化による価格変動を分離しようとする手法)や、小売取引のスキャナーデータの利用などを通じてこうしたバイアスへの対処を試みてきた。その取り組みは相当なものだった。だが物価指数の質の問題は依然として解決されておらず、AIによって状況は劇的に悪化する可能性がある。
その理由は単純だ。物価指数は質の変化が緩やかであるか、あるいは目に見える形で生じる場合にうまく機能する。処理速度が速いプロセッサーであれば、その速度を比較することができる。しかし大規模言語モデル(LLM)は明確な単位で測定することが難しい。その価値はさまざまなベンチマークにおける性能や信頼性、応答速度(レイテンシー)、コンテキスト長、業務システムとの統合度、さらには利用者のスキルといった要素の組み合わせによって決まる。見かけ上の生産量の単位であるトークンは、経済価値の安定した単位とはいえない。
SemiAnalysisが指摘しているように「100万個のトークンは、ゴミのようなもの、有用なメールの要約、法的文書、あるいは企業の戦略を変えるような決定にもなり得る。経済価値はトークンの数ではなくその出力内容によって決まる」。だが、これはGDPの問題ではなく価格指数の問題だ。トークンの使用やソフトウェアのサブスクリプション、クラウドサービス、資本設備など、名目上の取引は常に可視化されている。問題は、その実質的な内容が時間の経過とともにどのように変化するかを判断する段階で経済測定の仕組みが機能不全に陥ることにある。



