厚生経済学とGDPは区別すべき
ブリニョルフソンらは、無料のデジタル商品が生み出す消費者余剰を記録する有益な研究を行ってきた。彼らが提案するGDP-Bという指標は、従来のGDPでは十分に捉えきれていないサービスから生じる消費者余剰を把握しようとするものだ。価格低下によって経済の他の分野で生じる支出を考慮した後でも残る部分を、捉えようというわけである。これにはインターネット検索やSNS、AIアシスタントといった無料または低コストのデジタル商品がもたらす価値が含まれる。
編注:厚生経済学(welfare economics)とは、人々が経済活動から得る満足・豊かさ(福祉)を分析し、経済政策の良し悪しを評価する経済学の1分野。市場価格に表れない満足も対象とする点で、市場で生まれた所得と生産を記録するGDPとは扱う範囲が異なる。
その余剰を推計する1つの方法は、人々がそれらのサービスへのアクセスを放棄する代わりに、どれだけの対価を受け取る必要があるかを問うことだ。問題は、その試みそのものより名称にある。この指標を「GDP-B」と呼ぶことでGDPとの近似性が漂い、方法論的に誤解を招く。
GDPは市場所得と生産を測る指標だ。無料のAIアシスタントによって生み出される消費者余剰は、厚生(welfare)の尺度としては有用かもしれない。だが、市場活動へ転換されない部分は所得ではない。それは家計が支出や貯蓄、投資に回すことのできないものだ。市場取引に加えて心理的余剰も組み込まれた公式の指標(GDP-Bのような指標)は、国民所得計算としての機能を果たさなくなっている。
編注:経済学でいう厚生(welfare)とは、人々が経済活動から得る満足や豊かさ(福祉)の全体を指す。市場で実際に支払う金額には表れない満足(無料サービスから得る便益など)も含む
厚生を測る別系統の指標を用意すること自体は、何ら問題ない。ただし、明確に名前を分け、方法論を切り離し、中核の国民経済計算から隔離しておくことが条件だ。
米国経済分析局(BEA)はすでにデジタル経済のサテライト勘定を試行しており、研究者たちは並行するダッシュボードを構築できる。しかし、厚生を測る試験的な指標を中核のGDP統計に紛れ込ませるべきではない。そもそも、すでに「みなし計算(帰属計算)」が過剰だという見方すらある。持ち家の帰属家賃がその例で、これは持ち家所有者を、自分の家を自分に貸している人として扱う仕組みだ。
ある年のGDP成長率をわずか0.1ポイントでも引き上げるような調整は、人々の経済認識、税制や移転支出政策の指針、金融政策の判断に影響を与え得る。こうした調整を行う際には、その正当性を立証するためのハードルは極めて高く設定されるべきだ。


