価格の下落は所得減を意味することも
AIが経済に与える影響において最も重要な側面の1つは、技術の進歩によって価格が下落したとき、測定される生産量がどうなるかという点かもしれない。価格の下落は通常歓迎されるものであり、消費者にとっては多くの場合、紛れもない利益となる。また、1ドル当たりの生産量が増えることは経済の生産性向上も意味する。それはすべて事実だ。しかし急激な価格下落にはこうした典型的な見方では見過ごされがちな特有のリスクが伴う。生産性や生産量が増しても、総所得が減少する可能性もあるのだ。
AIがサービス部門の生産性を高めると同時に価格をゼロに近づければ、それまでその部門の労働者を支えていた所得は崩壊する可能性がある。その結果、経済の生産性は向上する一方で、多くの労働者の生活水準が低下してしまうような成長形態が生じかねない。価格の下落が生産量の増加を上回る場合、影響を受ける産業の総収益は減少せざるを得ず、生産量が増えているにもかかわらず労働者やその他の生産者が得られる所得は減る。この論理は米国の労働者が提供するサービスの価格がAIによって暴落する場合にも当てはまる。
だが重要なのは、名目GDPがこの結果を正しく反映しているという点だ。仮に、法律文書の作成費用が以前は150ドル(約2.4万円。1ドル=160円換算)だったものが現在はAIトークン0.5ドル(約80円)分で済むようになり、以前その文書を作成していた弁護士がもう同じ仕事に従事していないのであれば、法律サービス部門の市場所得は減少する。名目GDPはその減少を正確に記録する。これが所得の減少として表れることは決してGDPの欠陥ではない。むしろGDPが意図した通りに機能している証拠だ。法律サービスのコスト低下が、かつてそのサービスを提供していた人々にとっての所得損失ではなく単なる測定誤差であるかのように、こうした価格下落を国民経済計算で「調整」すべきではない。
SemiAnalysisの論考では、著者らはこれを「代替によるダーク・アウトプット」と呼んでいる。以前は最終成果物の価値を測定するために使われていた弁護士の請求書が、成果物が同じであってもわずか数セントのAI支出に置き換わってしまうかもしれないという考え方だ。著者らは、AIが業務を代替し得る分野においてその影響額が約1.5兆ドル(約240兆円)にのぼると推計している。だが、その代替効果はGDPでは自動的に見えなくなるわけではない。測定される影響は、コスト削減分が顧客に還元された際、人々が手元に残った余剰資金をどのように使うかによって変わる。とはいえ、新しい仕組みの下で唯一の取引記録がトークンの利用料であるなら、それが生み出される唯一の新たな所得でもあり、まさにそれがGDPに計上されるべきものだ。


