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経済・社会

2026.06.23 13:15

『戦後敗戦』著者・船橋洋一が語る、地経学で見抜く「経済の武器化vs.日本」

船橋洋一氏 写真=的野弘路

――『戦後敗戦』の中で、「安全保障の黒字国と赤字国」という言葉が登場します。恥ずかしながら、今までこういう言葉を私は知りませんでした。アメリカは東西を大洋に囲まれて、南北をメキシコとカナダという2カ国としか国境を接していない。この2カ国ともアメリカに脅威を与える国ではなく、世界でもっとも恵まれた安全保障の構造的な黒字国。逆に、日本は当時、軍事独裁政権だった韓国が隣にいて、体制が違う中国、冷戦中の敵対陣営であるソ連がいる。地理的にも資源的にも大幅な「安全保障の赤字国」である、と。
 
船橋:当時、通産大臣だった中曽根康弘氏は、石油危機に直面した時、こう語りました。
 
「我々は、自らの力で『生きている』のではなく、世界のすべての国から『生かされている』ことを身に沁みて感じさせられた」と。
 
国際秩序があってこその繁栄だったと痛感したわけです 。そして現在、再び国際秩序が崩壊していく中で、日本の「構造的赤字国」としての弱さがむき出しになりつつあります 。 日本のようにエネルギーも資源も海外に依存し、長いシーレーン(海上交通路)を使って運搬している国は、「構造的経済安全保障赤字国」と言わざるをえません 。そのシーレーンも、アメリカの第七艦隊や第六艦隊が守ってくれているからリスクフリーで享受できているだけで、日本単独では守れない。
 
構造的赤字国だという認識を正確にもち、それに対応してリスクを管理して、事前に手も打つ。そういう環境づくりのために国際秩序も一緒になって、日本もルールテイカーとして、あるいは少なくともルールシェイカーとして参画し続けるか。ここにかかっていると思います。
 
――本の中で「戦略的対話」の重要性を当事者たちから引き出しています。一方で、石油危機のさなか、アメリカのキッシンジャー国務長官は「日本が勝手に暴れ回るとアメリカは困る」と言い、中曽根大臣は「独自の行動をとらざるを得ない」と反発する。すると、キッシンジャーは「その独自の行動とは何か」と詰め寄る。主要人物たちの攻防はドラマチックなのですが、その後も日本は自動車や半導体でもアメリカから何かと要求を突きつけられる。意外なのは中曽根康弘のスケールの大きな言動です。
 
1982年に中曽根さんが首相になった時、「政界の風見鶏」と批判されたり、「日本はアメリカの不沈空母になる」という発言に対しても大批判が巻き起こったり、「軍国主義」などと批判的なものが多かったと記憶しています。
 
船橋:中曽根さんは「軍国少年」「青年将校」と揶揄される言われ方をしていましたが、世界の中での日本の役割や歴史的使命という大きなピクチャー(大局観)を常に持っている政治家でした。中曽根さんに「日本の戦前の最大の失敗は何ですか」と尋ねたことがあります。彼は即座に「1915年の対華21カ条要求だ」と答えました。
 
この質問に対して、「満州事変(1931年)」と答える人は多いのですが、それよりもはるか前、大隈重信内閣の選択によって中国や朝鮮の民族を敵に回し、これらの民族が共闘して日本を敵とみなした。こうしたきっかけをつくった21カ条の要求は、最大のリスクになった、と。
 
そのことが、アジアに甚大な被害を及ぼす起点になったという歴史観を中曽根さんは明確にもっていました。首相になる人は、首相就任直後に例外なくワシントン詣でをします。しかし、中曽根さんは1982年に首相に就任すると、真っ先に当時軍事政権だった韓国に飛び、全斗煥大統領と会談します。
 
――そうした歴史観は、一般的には知られていない一面ですね。
 
船橋: アメリカ一辺倒の人のように言われていましたが、決してそうではありませんでした。石油危機の時、外相だった大平正芳さんは日米関係を重視します。一方の中曽根さんは、「アメリカの石油メジャーの力に影が見える」と指摘し、日本は中東に直接投資をしたり、開発をしたりして、独自の権益を確保すべきだという意見でした。それは「DD原油(直接取引原油)」と呼ばれて、「アラブの国と直接交渉しよう」という経済安全保障の政策の一つです。

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文=藤吉雅春

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