AIは、人工的に強力な国家を生み出す
AIは、人工的に強力な国家を生み出し、それらの国が後れを取った国々を支配することになる。槍でライフルに立ち向かうのは弱者の戦略ではないし、トランプのような相手にすがるのも戦略とはいえない。
マクロンはその点を明確にしたし、EUの他の国々もそれを理解していると見てよい。
そこで問題の核心はこうだ。
・人間はソフトウェアに制約される
・ソフトウェアはハードウェアに制約される
・ハードウェアはエネルギーに制約される
これによって、欧州は一撃で脱落する。
欧州は米国と比べて人口は1.5倍であるのに対し、電力は半分しかない。電力が足りないため、AIでは勝負にならないのだ。EU内で十分な電力を持ち、しかも迅速に拡張できる能力を備える唯一の国はフランスである。そして案の定、ソフトバンクが同国でのAIインフラ整備に数十億ドル(数千億円)を投じると表明したばかりだ。
一方、米国には電力もあり、インフラを拡大するための土地もある……。しかし、待ってほしい。
中国はすでに米国のおおむね2倍の発電量を持つと見られており、しかも驚異的なペースで発電能力を増やしている。欧米を大きく下回るコストで原子力発電所を建設している。何しろ中国は数十年にわたり本格的な規模で建設を続けてきたのに対し、米国とEUの原子力技術は衰退してきた。中国は、米国が夢見ているエネルギーインフラをすでに建設している。欧州は、それが必要だとようやく認識し始めたところである。
したがって、中国に追いつくことは極めて困難に見える
米国の優位性は半導体とソフトウェアにあるが、その堀(競争優位性)は急速に削られつつある。資金はあるかもしれない。だが米国には、歯止めのかからない財政赤字、分断された政治、そしてネオ・ラッダイト(新機械破壊運動家。AIなどの新技術に反対する人々)によるAIへの抵抗もある。これらは中国では見られないし、許容もされない。
米国の優位性は首位を保つのに十分だというのが、一般的な見方だ。しかし、技術はインフラよりもはるかに速く進む。技術上の堀は数カ月で消えてしまう一方で、希少な鳥の営巣を理由に発電所の建設が無期限に止められてしまうような政治制度の下では、エネルギーの格差は永遠に埋まらないかもしれない。
イーロン・マスクはロボットを語るが、中国はそれを今日すでに販売している。しかも、オフィス内をよろよろ歩き回るようなものではない。カンフーを披露するロボットなのだ。
中国は米国のソフトウェアとハードウェアの堀を埋めることができるし、実際に埋めるだろう。
米国は中国のエネルギーの堀を埋められるだろうか。
フランス本拠のMistral AIが創業以来調達した資金は累計で約28億ユーロ(約5180億円。1ユーロ=185円換算)にとどまり、2024年6月のシリーズBは約6億ユーロ(約1110億円)だった。これは米国の主要AI企業が投じる資金にははるかに及ばない。マクロンはMistral AIを「フランスの天才」の一例と呼んでその技術力を高く評価し、政府機関への同社AIの導入を進めてきた。同時にマクロンは、AIの将来を主権と戦略的自律をめぐる政治問題と位置づけ、欧州が米国と中国に後れを取っている現状に強い危機感を示している。
ここから先、この分析は2つの方向に展開できる。
1. 米国は十分なエネルギーを十分な速さで建設できず、終わる
2. 中国に追いつくため、米国と欧州で本当に巨大なエネルギーインフラの整備が進む
1つ目の筋書きを書いたほうが、著者としての私の商売にとってはるかに美味しい。読者は破滅論が好きなものだ。しかし私は、エネルギーへの大規模な転換が起きると見ている。
それはごく近いうちに訪れる。そして、その取り組みが失速するなら、われわれは皆、1つ目の選択肢を選ぶことになる。
だが、もし失速しなければ、その経済的影響は甚大なものとなるだろう。急速な成長、高いインフレ、そして今後何年にもわたる経済と政治の不安定さの長期的な高まりである。
エネルギーこそが、われわれの未来を握る鍵である。
そして、われわれがNSではなくAI──すなわち知性──を選ぶならば、その未来は明るいものになり得る。
NSとは?ナチュラル・スチューピディティ(Natural Stupidity:天然無能)のことだ。
悲しいかな、こちらの供給は無尽蔵だ。


