当時の公共系の課題はこうだった。
「公共系は入札の約3年前から仕込みます。現場では“秘伝のタレ”とでも呼ぶべきノウハウがありましたが、本当に会うべき人に会っているのか、聞くべきポイントをヒアリングできているかがデジタルに可視化されておらず、現場を組織的に支援できていなかった」(小玉)
変革チームのメンバーは、現場から秘伝のタレのレシピをヒアリング。それらを集めて勝ちパターンを抽出し、型に沿って営業できているかどうかシステムで確認できるようにした。それを筆頭に、データドリブン営業の仕組みを次々に整えていった。
「意識したのはクイック・ウィン。小さくてもいいからすぐに成果を出すと、現場は『これは使える』と活用が加速します。市況もあったが公共系は業績面でも成果が出た。最終的には予算達成率は140%を超えました」(小玉)
ある事業部門で成果が出れば、ほかの事業部門も興味を示す。先行した事業部門は変革に2年かかったが、それを参考にした部門は7カ月で同じレベルの行動変容が起きた。最初は6つの事業部門に絞って始めた営業変革は、こうやって加速度的に巨大組織に拡大。それが売上増、営業利益増という結果に結びついたことは前述の通りだ。
次なる挑戦
変革はまだ終わらない。システム導入が「MIP 1.0」、データドリブン営業への変革が「MIP 2.0」とすると、現在はAIを組み込んで営業をさらに効率化・高度化する「MIP 3.0」に取り組んでいる最中だ。
例えばMIP-NEXTに入力した情報と市場の情報などを組み合わせてAIが顧客をSWOT分析し、アカウントプランを策定。営業担当はそれをもとに仮説提案するが、提案書の作成もAIが支援してくれる。
極め付きはキーパーソンAIだ。顧客キーパーソンの公開情報などから疑似的キャラクターをつくり、企画書をレビューさせるのだ。実際、ある自治体トップのAIをつくって提案を磨き、本人にデモとして見せたところ、「素晴らしい企画書だ」と称賛された。
変革チームのメンバー、及川直緒はこう明かす。
「現場も手ごたえを感じて、自分たちの暗黙知をAIに反映させようと『もっとこうチューニングしてほしい』と要望が来ます。それらを極力クイックに打ち返していますが、次々に要望が来るからなかなか追いつかない。うれしい悲鳴ですね」
この5月には営業AIを実装。商談の場に同席させて、営業担当が把握しきれていない製品情報などをその場で回答させるという。ここまで代替できると、営業担当がやることがなくなってしまうのではないか。そう問うと、小玉は強く否定した。
「お客様と場をつをつくって次につなげるにはヒューマンの良さが欠かせません。そこが残るだけでなく、今後は数々のAIエージェントたちをマネジメントするスキルが必要になる。営業担当も進化を求められます」
AIの組み込みで営業の変革は進んだ。しかし、ゴールはまだ先だ。最後に小玉は未来の営業組織像についてこう明かした。
「今はまだ営業プロセスにAIを組み込み、徹底的に効率化や高度化するフェーズ。次はAIを前提に営業プロセスを最適化する『MIP 4.0』のフェーズに入らないといけない。そこまでいくと営業は根底から変わるかもしれない。2030年ごろには着手したいですね」
中央:小玉 浩(こだま・ひろし)◎執行役 Corporate EVP CAXO (Chief AI Transformation Officer)
右:近藤吉樹(こんどう・よしき)◎セールスDX推進グループ 上席プロフェッショナル
左:及川直緒(おいかわ・なお)◎セールスDXグループ プロフェッショナル


