この10年、リーダーシップの専門家は、優しさ、共感、思いやり、そして心理的安全性について数多く論じてきた。
それには十分な理由がある。従業員は、自分を一人の人間として気にかけ、懸念に耳を傾け、成長できるインクルーシブな環境を整えてくれるリーダーを求めているのだ。
しかし、優しさには、はるかに注目されにくい側面もある。
ある部下のパフォーマンスが低下しているにもかかわらず、相手の気持ちを傷つけたくないという理由で、問題に向き合うことを避けるリーダーを想像してほしい。その部下は改善に必要なフィードバックを受け取れず、チームメンバーはアカウンタビリティの欠如に不満を募らせ、パフォーマンスは低下し続ける。やがて、関係者全員にとって、より深刻な結果を招くことになる。
これがリーダーシップのパラドックスである。
その瞬間は優しく感じられることが、時間の経過とともに、より大きな害をもたらすことが多い。
目指すべきは、優しさを減らすことではない。人と組織の双方が成功するような形で優しさを表現することである。他のリーダーシップの強みと同様に、優しさも健全な境界線、アカウンタビリティ、責任から切り離されると問題になりうる。課題は、優しさとリーダーとしての責任のどちらかを選ぶことではない。その両方を同時に示すことである。
優しさが責任と釣り合っていないとき、以下の5つのリーダーシップリスクが生じやすくなる。
避けるべき5つのリーダーシップリスク
1)優しさが必要な決断を遅らせるとき
今日の組織は、絶え間ない変化、複雑性の増大、ステークホルダーからの要求の高まりに直面している。リーダーは、変化に対応し、ステークホルダーの期待に応え、組織を将来の成功に向けて位置づけるために、常に難しい決断を下さなければならない。
優しくあることを重視しすぎるリーダーは、組織全体の利益のために何が必要かを見失うことがある。ポール・ブルームは著書『Against Empathy(反共感論)』の中で、共感が判断力を損ない、意思決定の質を低下させることがあると述べている。ビジネスリーダーは、個々の従業員への配慮と、組織全体に対する責任のバランスを取らなければならない。
短期的には優しく感じられることが、長期的にはより大きな害をもたらすことが多い。それでも多くのリーダーは、他者を失望させたり不快にさせたりすることを恐れて決断を先延ばしにする。必要な行動を後回しにすると、不確実性が増し、フラストレーションが高まり、問題はより解決困難になる。
健全な優しさは、難しい決断を避けない。他者のニーズや視点を理解しながらも、より大きな善に資する決断を下すことをリーダーに促すのである。
2)優しさが厳しいフィードバックを避けるとき
正直なフィードバックを伝えることは、優しくないことではない。相手が成功するために必要なフィードバックを差し控えることこそ、しばしば優しくないのだ。
リーダーシップの最も重要な責任の一つは、従業員の成長、適応、パフォーマンス向上を支援することである。しかし、相手の気持ちを傷つけたくない、あるいは優しくないと思われたくないという理由で、難しい会話を避けるリーダーは少なくない。残念ながら、従業員がパフォーマンスの問題を十分に認識したときには、挽回するには手遅れになっていることも多い。
従業員の成功を心から願うリーダーは、フィードバックが成長に不可欠な要素であることを理解している。責任を果たすには、人を支援することと、改善が必要な点を理解させることの両方が求められることを認識しているのだ。
最も効果的なリーダーは、思いやりと明確さの両方を持って難しい会話に臨む。
3)優しさが低いパフォーマンスを守ってしまうとき
リーダーができる最も優しいことの一つは、アカウンタビリティの文化を築くことである。これらのアイデアは相反するように見えるかもしれない。しかし実際には、アカウンタビリティこそが、個人やチームの成功を可能にするものであることが多い。アカウンタビリティが欠如したチームで働いた経験はないだろうか。結果は予測可能である。
- 低いパフォーマンス
- 締め切りの未達
- 信頼の低下
- 継続的な対立
健全な優しさを示すリーダーは、アカウンタビリティがモチベーション、信頼、パフォーマンスに不可欠であることを理解している。人とチームが成長するためには両方が必要であるため、優しさと責任のバランスを取ることに努めるのである。
従業員は、意義ある目標に向かって前進するとき、達成感を得る。テレサ・アマビールとスティーブン・クレイマーの研究によれば、意義ある仕事で進捗を実感することは、モチベーション、エンゲージメント、パフォーマンスの最も強力な原動力の一つである。
4)優しさが個人のニーズを「大義」より優先してしまうとき
リーダーシップには、個々の従業員のニーズと、より大きなチーム、組織、ミッションのニーズとのバランスを取ることが求められる。
個人を守りたいという思いが、より大きな善に資する決断を下すことを妨げるとき、問題が生じる。リソースの再配分、パフォーマンス問題への対処、チームの再編成、優先順位の変更など、リーダーは他者を失望させることを恐れて必要な行動を先延ばしにしてしまうことがある。
健全な優しさは、個人への影響を考慮する。
効果的なリーダーシップは、他のすべての人への影響も考慮する。
最も効果的なリーダーは、大義に奉仕することが優しさと矛盾しないことを理解している。多くの場合、それこそが最も責任ある選択であり、究極的には最も優しい選択なのである。
5)優しさが「ノー」と言う力を損なうとき
今日の複雑な環境において、リーダーは競合する優先事項や絶え間ない注目の要求に囲まれていることが多い。リーダーが「ノー」と言うことに苦労するのには、理解できる理由がある。
・他者を失望させることを恐れている
・心から助けたいと思っている
・対立を避けたい
・否定的な結果を心配している
・「イエス」と言うことでキャリアを通じてうまくやってきた
問題は、すべてが優先事項であれば、何も優先事項ではなくなるということだ。
リーダーとしての責任を果たすには、時間、エネルギー、リソースをどこに投じるかを選び取る必要がある。これは、リーダーが無反応になるということではない。皆に好かれようとして、最重要の優先事項を犠牲にしないということである。
最も効果的なリーダーは、「ノー」を使って「イエス」を守る術を身につけている。
リーダーシップの効果性に必要なバランス
最も効果的なリーダーは、優しさと責任が競合する優先事項ではないことを理解している。両者は補完し合う責務である。
健全な優しさは、リーダーが難しい決断を下し、尊厳を守り、信頼を築き、長期的な成功を支える形でそれを実行することを助ける。難しい会話を避けたり、必要な決断を先延ばしにしたり、従業員を責任から守ったりすることが、関係者全員にとってより大きな害をもたらすことが多いと理解しているのだ。
その瞬間に優しく感じられることが、長期的に見て常に優しいとは限らない。
真の優しさは、その瞬間にどれだけの不快感を避けさせてあげられたかで測られるものではない。時間をかけて、どれだけの成長、成功、そして長期的なウェルビーイングを生み出す助けになったかで測られるのである。



