円高を期待する人々にとって、これは好ましい兆候ではない。足元の円相場は1ドル=161円前後で推移しており、年初来では約2.8%下落している。日本政府は表向きには、円安の進行を止めたいとしている。財務省は4月末以降、円相場の安定化のため少なくとも約11兆7000億円を投じた。しかし、こうした取り組みはただのパフォーマンスにすぎないという見方にもかなり説得力がある。
日本政府は、輸出促進のため意図的に円安に誘導しているという認識ほど、日本がドナルド・トランプ米大統領の標的にされやすい材料はないと理解している。スコット・ベッセント米財務長官はこれまで、日銀に利上げの継続を促すような発言をしてきた。ロジックを読み解けばこういうことかもしれない。トランプが米連邦準備制度理事会(FRB)に金融緩和を強いることはできなくても、米国は日本に金融引き締めを促すことはできる。日本政府は本音では円安を歓迎しているのだが、表向きには円安と戦っているように見せたい──。
しかし、ここには根本的な矛盾がある。日本はスタグフレーション(景気停滞下のインフレ)に直面しているのだ。植田日銀は選択を迫られている。介入し、フリーマネーという酒はもう出さないと政府に告げるか。それとも、その酒への依存を引き続き支えるか。酒棚の扉は開いたままになっている。問題は、政府と日銀のどちらが先に根負けするかだ。


