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サイエンス

2026.06.24 18:00

数十km先のにおいを感知するホッキョクグマの驚異的な嗅覚と狩りの戦略

stock.adobe.com

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北極は、1年の大半を通じて、氷と雪と沈黙だけが、地平線のはるか先までひたすら広がる世界だ。樹木はなく、目印になるものもない。温度はたいてい氷点を軽く下回る。しかし海氷の下では、風景のところどころに散らばるようにアザラシが隠れ家で休憩し、時折、呼吸のために氷の上に顔を出す。ホッキョクグマにとって、それは容易に特定することができる。

ホッキョクグマ(学名:Ursus maritimus)は、数十km離れたところからでも、アザラシのにおいを嗅ぎとれる。この距離を科学的に確認するのは難しいが、ホッキョクグマが動物界全体で見てもひときわ優れた嗅覚系を備えていることは、ほとんど疑いようがない。だが、鼻の感度よりもさらにすごいのは、その活用の仕方だ。

研究が示すところによれば、嗅覚はホッキョクグマの生存の中核をなすものであり、ホッキョクグマの行動、コミュニケーションシステム、さらには彼らの依存する生息場所をもかたちづくってきた。だがいま、北極の急速な変化により、その類いまれな感覚適応を進化させたその環境自体が変わり始めている。

ホッキョクグマは鼻で世界を知る

たいていの人は、獲物を探す捕食者を想像するように言われたら、鋭い視覚であたりを探る姿を思い浮かべるだろう。ところがホッキョクグマでは、このプロセスの主役を嗅覚が担っている。

2017年に『Scientific Reports』で発表された研究では、獲物を探すホッキョクグマが、風向きに応じて自分の動きを調整しているという定量的なエビデンスが初めて提示された。研究論文の著者らは、カナダ・ハドソン湾にいるメスのホッキョクグマの成獣をGPSで追跡したデータを分析し、そのホッキョクグマの動きを、モデル化した風の条件と照らし合わせた。

研究者らはすぐに、繰り返し生じるあるパターンに気づいた。通常、狩りの活動が最も活発になる時期である冬の夜のあいだ、ホッキョクグマは横風を受けて動く、つまり風の向きに対して垂直に動くことが最も多かった。注目すべきは、科学者のあいだでは、これとまさに同じ方法が、未知のにおいの源を特定する最適な戦略と見なされていることだ。

この戦略が最適とされる理由は、においの物理学に関係している。空気中に放出されたにおいは、四方八方に均等に広がるわけではない。むしろにおいは、風によって広がり、細長い筋のようになる。横風を受けながら動けば、複数のにおいの筋をいっぺんに通過できる。それにより、においを感じる可能性が高まり、ひいては追跡が成功する可能性も高まるわけだ。

でたらめに動きまわっていても、いずれはうまくいくかもしれないが、においに遭遇する可能性の高い方法で規則正しく動く方が、はるかに効率がよい。

この研究の知見のなかでも興味深い点は、嗅覚による探索に適さない条件下では、ホッキョクグマが戦略を変えたことだ。強風が吹いている時には、横風を受けて探すのをやめたのだ。これはおそらく、強風が乱流を生み、においの筋がばらばらになるせいで、においに関する情報の信頼性が低くなるからだろう。どうやらホッキョクグマは、状況に応じて調整しているようだ。

この知見は、嗅覚に頼る採餌という点で、ホッキョクグマのスキルがいかに高いかを証明している。狩りの成功率を直接高めるかたちで、大気の条件に動的に反応しているのだ。

この知見が意味することは注目に値する。アザラシは雪や氷の下、あるいは水面下に身を隠すことで知られており、これは、視覚による発見を難しくしたり、不可能にしたりする。だが、風の運ぶにおいを利用するホッキョクグマは、視野のはるか外にいる獲物の情報を、場合によっては物理的な障害物をも越えて集める。ホッキョクグマの狩りの戦略は、感覚系を拡張し、事実上、北極の大気をみずからの感覚系の一部に変えるものなのだ。

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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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