北極の変化に、ホッキョクグマは追いつけない
ホッキョクグマは数万年にわたり、海氷と密接に関わり合いながら進化してきた。海氷は狩りの主要な手段であり、そのおかげでホッキョクグマは、北極圏の広大な領域にいるアザラシを利用できる。ホッキョクグマの感覚適応、動きのパターン、狩りの戦略は、どれもごく限定的な環境に合わせて複雑に適応したものだ。だがいま、その環境が変わりつつある。
2016年に『Proceedings of the Royal Society B』で発表された研究では、海氷が大幅に減少している時期のチュクチ海におけるホッキョクグマの生息地選択が調査された。その結果、環境の劇的な変化にもかかわらず、ホッキョクグマが依然として、昔から好んできたのと似た特徴のある生息地を選んでいることがわかった。つまり、何世代にもわたってうまく機能してきた生息地のテンプレートを忠実に守っているということだ。
この知見は、拡大しつつある難局を浮き彫りにしている。北極が急速に変化している一方で、過去の環境条件のもとで進化してきた生態学的な選好は、おおむね変わらずに残っているのだ。ホッキョクグマはあいかわらず、狩りの成功と結びついてきた、海氷のある生息場所を求めている。だが気候変動により、そうした生息場所は得にくくなっている。
アザラシの発見に大きく依存している動物にとって、これは生きるか死ぬかを左右する。海氷が少なくなれば、従来の足場で狩りをする機会が減る。さらに、適した生息場所を見つけるために移動せねばならない距離も長くなる。その結果、ただでさえ食物資源の獲得が難しくなっている上に、消費しなければならないエネルギー量も増えることになる。
何よりも残酷なのは、どれだけ感覚を研ぎ澄ませても、生息環境の喪失を完全に補うには足りないことだ。ホッキョクグマは、においを利用して獲物を見つけるすべに長けているかもしれないが、何よりも、狩りができる環境へのアクセスが必要なのだ。
前述の2017年の風をめぐる研究では、ホッキョクグマがにおいによる探索の効力を最大限に高めるように行動を進化させてきたことが示唆されている。化学コミュニケーションをめぐる2015年の研究では、においがホッキョクグマの暮らしに深く根付いていることが明らかになった。生息地選択に関する2016年の研究は、そうした驚くべき適応が、特定の生態学的状況のなかで進化してきたことを改めて伝えた。そしていま、その生態学的状況は、前例のないスピードで変化しつつある。
ホッキョクグマの嗅覚が、自然界のひときわ大きな到達点の一つであることに変わりはない。その嗅覚は、人間の目にはからっぽに見える環境から、捕食者として情報を引き出すことを可能にしている。食べものを見つけ、社会的関係をうまくこなし、地球屈指の過酷な生態系で生き延びる助けになっている。
とはいえ、その非凡きわまりない適応にも限界はある。ホッキョクグマは地図のように風を読める。だが、その地図が融解していくのを止めることはできない。


