先物市場はタンカーより速く動く
原油価格はニュースの見出しに敏感に反応する。停戦の報道、外交的な枠組み合意、ホルムズ海峡再開の兆候などがあれば、原油先物市場は数分以内に変動する。まさにトレーダーたちが地政学的リスクの低下を織り込み始めた結果、価格は下がりつつあるのだ。
だが、実際の原油の輸送は事情が異なる。
ホルムズ海峡は世界で最も重要なエネルギー輸送の難所だ。数カ月間にわたって続いた混乱は、プレスリリース1枚で解消できるものではない。遅延が生じた船舶は運航計画を練り直さねばならず、保険会社は戦争リスクプレミアムを再評価しなければならない。乗組員や荷主は航路が安全だと確信できる必要がある。港湾は混雑に対処しなければならない。原油の調達パターンを変更した精製業者は、すぐには元に戻せないだろう。
これらすべてが重要なのは、ガソリン価格が原油価格だけでなく、適切な原油を適切な場所と適切なタイミングで入手できるかどうかにも左右されるからである。石油精製業者がこれまでと同様に原油の確保を競い合ったり、物流上の制約で原油の円滑な流通が滞っていたりすれば、先物市場が緩和を予想していてもガソリン価格が高止まりする可能性がある。
在庫の少なさは強気材料になる
より大きな問題は原油在庫だ。大規模な供給混乱が生じた際、世界は単に石油の消費を減らし、危機が収束するのを辛抱強く待つわけではない。在庫を取り崩すのだ。商業在庫は減少する。戦略備蓄が放出されることもある。精製業者や輸入業者は、ありとあらゆる供給源の確保に動く。
たとえば、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてすでに大幅に取り崩されていた米国の戦略石油備蓄(SPR)は現在、1983年以来の低水準まで減少している。
危機が緩和されれば、これらの原油在庫を補充しなければならない。
これにより、いわゆる「在庫の罠」が生じる。ホルムズ海峡が再開されれば原油の供給は増え、原油価格にとっては弱気材料となる。しかし、枯渇した在庫を補充する必要性は強気材料となる。市場が正常化しようとしているまさにそのタイミングで、原油に対する追加需要が生まれるからだ。


