リーダーシップ

2026.06.18 11:00

専門性だけでは生き残れない時代、リーダーに求められる「適応型パフォーマンス」とは

stock.adobe.com

stock.adobe.com

今日のリーダーシップを考えるうえで有用な手がかりは、スティーブン・R・コヴィーの7つの習慣にある。コヴィーは同書で、木をひたすら切り倒そうとノコギリを引き続ける男の話を紹介している。男は疲れ果て、懸命に作業しているのに、ほとんど前に進まない。通りすがりの人がノコギリの刃を研ぐために止まるよう勧めると、男は「ノコギリを引くのに忙しすぎて、そんな時間はない」と答える。

advertisement

教訓は明快だ。刃を研ぐ時間を取らなければ、効果は落ちていく。コヴィーの教えはいまも有効である。ただ、今日の職場において「刃を研ぐ」とは何を意味するのかが変わった。

何十年もの間、プロフェッショナルは「刃を研ぐ」を、より多くの知識、専門性、技術スキルを身につけることだと捉えてきた。理由は明確である。専門性はしばしば、キャリアの安定、信頼性、昇進をもたらした。

専門性だけでは、もはや十分ではない

今日の職場は、変化の加速、複雑性の増大、そして絶え間ないディスラプションによって形づくられている。テクノロジーは急速に進化し、事業環境の変化はさらに速くなった。期待値も変わり続ける。リーダーには、意思決定を行い、合意形成を図り、不確実性を乗り越えることが、ほとんどの組織がこれまで経験したことのないスピードで求められている。

advertisement

人工知能が、この現実を加速させている。

AIはいまや、情報の要約、コンテンツ生成、データ分析、ワークフローの自動化、意思決定支援を、多くの人間より速く行える。知識の優位性は縮小している。かつてプロフェッショナルを差別化した技術的専門性は、急速にコモディティ化している。

これは、専門性がもはや重要ではないという意味ではない。重要である。しかし同時に、専門性だけでは長期的な成功を予測しにくくなっていることも意味する。経験そのものは、持続的なリーダーシップの優位性を生み出さない。経験から学び、適応する能力こそが優位性になる。

業界をまたいでリーダーやリーダーシップチームを長年コーチングしてきたなかで、私は一貫したパターンを観察してきた。長期にわたり成功を維持するリーダーは、単に最も多くを知っている人であることは稀だ。プレッシャー下でも信頼を保ち、状況を正確に読み取り、行動を適応させ、状況の変化に合わせて学び続けるリーダーである。

専門性だけでは足りないとき

私は最近、組織内で非常に高く評価され、卓越した知性と戦略性、オペレーション面の強さを備え、物事を実行できることで知られている幹部と仕事をした。課題は専門性ではなく、適応力だった。

困難やプレッシャーの局面になると、そのリーダーは次第に指示的になり、批判的で、相手を貶めるようになっていった。健全な議論を促すはずだった会議は、次第に静まり返っていった。周囲はオープンさよりも、防御的で自己保身的な姿勢で彼に対応するようになった。

このリーダーが組織横断で協働的に率いる力は弱まり、人間関係はさらに緊張し、信頼が損なわれ、影響力が低下していった。このリーダーが失速したのは能力不足のせいではない。むしろ多くの点で、キャリアの早い段階で成功を生んだ強みそのものが、いまは逆に作用していた。

最終的に軌道を変えたのは、さらなる専門性や技術知識ではなかった。自分が人と成果に及ぼしていた意図しないネガティブな影響への気づきである。この気づきが、立ち止まり、内省し、フィードバックを求め、他者がその状況をどう経験しているのかをよりよく理解し、リアルタイムで意図的に行動を調整する意思を生んだ。

この経験は、私が組織全体で観察し続けていることを改めて裏づけた。パフォーマンスは状況次第である。

一貫して成功するリーダーは、固定化された強みに頼る人ではない。自己を正確に理解し、感情をマネジメントし、状況を読み取り、リアルタイムで効果的に行動を調整できる人である。

この継続的なパターンが、私が「適応型パフォーマンスモデル(Adaptive Performance Model)」と呼ぶものの基盤になった。

適応型パフォーマンスモデル

適応型パフォーマンスとは、内省、フィードバック、経験を通じて思考、感情、行動を適応させることで、効果性を継続的に高める能力である。

このモデルは、リーダーが次の中心的な問いに向き合うために設計されている。

状況が不確実で、感情的で、複雑で、重要度が高いとき、私はどのようにすれば効果的に対応できるのか?

このモデルが焦点を当てるのは、相互に関連する4つの能力である。自己認識(Self-Awareness)、感情コンピテンス(Emotional Competence)、状況認識(Situational Awareness)、行動の俊敏性(Behavioral Agility)。この4つすべての中心にあるのが「内省+フィードバック」であり、経験を学び、適応、成長へと変換するエンジンである。

1. 自己認識

自己認識の高いリーダーは、自分の思考、習慣、ルーティン、盲点が、世界の見方や状況の解釈の仕方をどう形づくっているかを理解している。

適応型リーダーは次のように問いかける。

  • なぜ私はこの状況をこのように解釈しているのか?
  • この見方は、私が望む成果に資するものか?

2. 感情コンピテンス

感情コンピテンスの高いリーダーは、プレッシャー下でも感情を調整し、衝動的に反応するのではなく、意図的に対応する。

適応型リーダーは次のように問いかける。

  • 私は何を感じているのか。それは何を伝えているのか?
  • どうすれば冷静さと効果性を保てるのか?

3. 状況認識

状況認識の高いリーダーは、どう対応するかを決める前に、その状況を取り巻く文脈、人、力学を正確に読み取る。

適応型リーダーは次のように問いかける。

  • この中核的な問題、あるいは機会は何か?
  • この瞬間は私に何を求めているのか?

4. 行動の俊敏性

行動の俊敏性を備えたリーダーは、状況が求めるものに応じて、コミュニケーションやリーダーシップのアプローチを調整する。

適応型リーダーは次のように問いかける。

  • この瞬間、私はどの役割を果たす必要があるのか?
  • どうすれば自分の価値観を体現し、目標を達成できるのか?

内省+フィードバック:適応型パフォーマンスのエンジン

適応型リーダーは、経験、結果、フィードバックを一貫して評価し、継続的に学び、改善する。

適応型リーダーは3つの問い「What?(何が起きたか)」「So What?(それは何を意味するか)」「Now What?(次に何をするか)」を通じて内省する。

多くのリーダーシップフレームワークと異なり、適応型パフォーマンスは、能力のチェックリストを習得することではない。状況が不確実で、感情的で、複雑で、重要度が高いとき、とりわけ変化する要求に応じてリーダーが継続的に学び、調整し、効果性を高めていくための動的なシステムである。

そして、まさにその局面で、多くのリーダーは最も苦戦する。

なぜリーダーはプレッシャー下で苦戦するのか

ストレス下では、非常に有能なリーダーであっても、より反応的で、防御的で、硬直的になりがちだ。研究によれば、批判、不確実性、コントロールの喪失、失敗への恐れといった社会的脅威は、身体的危険に結びつく「闘争・逃走・凍りつき(fight, flight or freeze)」反応と同じ反応を活性化しうる。

こうなると、リーダーはリーダーシップに最も必要な能力にアクセスできなくなることが多い。戦略的思考は狭まり、好奇心は減り、共感は弱まる。だからこそ、自己認識と感情コンピテンスは極めて重要である。

多くのリーダーは、適応力が崩れ始める瞬間に気づかない。それはしばしば、緊張した会議、批判的なフィードバック、約束の不履行、組織的プレッシャーの高まりといった、ごく日常的な場面で起きる。リーダーは影響に気づかないまま、より早く遮り、注意深く聴かなくなり、より支配的になる。時間がたつにつれ、そうした小さな瞬間が、人々のコミュニケーション、協働、反応のあり方を変えていく。

最良のリーダーは、反応する前に立ち止まる力を養う。感情が視点を歪めているときにそれを認識し、衝動的ではなく意図的に対応するための余白をつくる。この「間」は重要だ。感情的に反応するリーダーは、信頼を損ない、心理的安全性を低下させ、不必要な対立を生みがちだからである。

ただし、適応型パフォーマンスは感情の調整にとどまらない。リーダーは周囲の環境を正確に理解する必要もある。ここで状況認識が決定的になる。

あまりに多くの場合、リーダーは重要で複雑な会話に臨む際、自分の立場を守ること、自分が正しいと証明すること、問題を素早く解決することに主眼を置いてしまう。その結果、文脈を理解できず、意図せず信頼と心理的安全性を低下させる。

最も強いリーダーは、別のシフトを行う。「me」から「we」へ、である。

自分自身の目標や視点にだけ集中するのではなく、他者の視点や経験を理解しようとする。質の高い問いを投げかけ、より注意深く耳を傾ける。解決策を押し進める前に、共有された理解を求める。

このシフトは、会話、関係性、意思決定の質を根本から変える。そして最終的には、実行力を高める。

しかし、文脈と他者のニーズを理解するだけでは十分ではない。

リーダーは行動の俊敏性、すなわち状況の要求に応じて、自らの価値観と目標に整合する形でコミュニケーション、行動、アプローチを適応させる能力も示さなければならない。

この能力は、急速な技術変化、変化する働き手の期待、絶え間ないディスラプション、増大する曖昧さによって特徴づけられるビジネス環境のなかで、ますます重要になっている。

成功するリーダーは、自らの価値観と目的との整合を失うことなく、適応型リーダーシップを実践する。

「刃を研ぐ」の新しい意味

こうしたすべての中心にあるのは、私がリーダーシップの成長において最も見過ごされがちな推進要因の1つだと考えるものだ。

内省とフィードバックである。

あまりに多くのリーダーが、起きたこととその理由を評価するために十分に減速することなく、1つの課題、会議、意思決定から次へと移ってしまう。しかし、経験だけでは成長は生まれない。

教育改革者のジョン・デューイは、次の言葉でこの考えを見事に言い表した。

私たちは経験から学ぶのではない。経験を内省することから学ぶのだ。

しかし、内省はインプットがなければ十分ではない。適応型リーダーは、自らの行動や意思決定がパフォーマンスにどう影響しているかをよりよく理解するために、他者、成果、結果からフィードバックも求める。これは謙虚さと勇気を要する。フィードバックは盲点を露わにし、前提を揺さぶりうるからだ。フィードバックは外部の視点を提供し、内省はそれらの洞察を解釈し、学び、より効果的に適用する助けとなる。

これが、内省とフィードバックが適応型パフォーマンスモデルの中心に位置づけられている理由である。両者は、経験を適応へと変換するエンジンだ。内省とフィードバックは自己認識を強化し、感情コンピテンスを改善し、状況認識を研ぎ澄まし、行動の俊敏性を加速させる。多くの点で、これこそが「刃を研ぐ」の新しい意味である。

専門性の賞味期限が短くなった世界では、リーダーは自らの価値観と目的に軸足を置きながら、継続的に学び、適応しなければならない。

リーダーシップの未来を担うのは、単に最も多くを知っている人ではない。際立つリーダーとは、不確実性を乗り越え、感情を調整し、行動を適応させ、信頼を築き、学び続け、複雑性と変化の中で人々を結びつけられる人である。

変化が加速し、昨日の解決策の信頼性が低下するなかで、適応型パフォーマンスは長期的なリーダーシップの効果性を左右する最重要要因の1つになりつつある。成功するのは、最も経験がある人ではなく、価値観、目的、目標に軸足を置きながら、経験から最も効果的に学べる人である。

forbes.com 原文

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事