注目すべきなのは、LEOにある衛星数がすでに1万2000基以上に達している中、ケスラーシンドロームの誘発がすでに間近に迫っていると、多くの科学者が考えていることだ。だが、もし意図的に衛星を破壊し始めるなら、ケスラーの悪夢が現実のものとなるのはほぼ確実だろう。
結末
爆破された衛星の小さな破片でも危険を及ぼす恐れがあるため、LEOをきれいに「掃除」する方法はないだろう。さらに悪いことに、ケスラーシンドロームで発生するデブリは、数十年から数百年にわたって残存する恐れがある。宇宙空間は事実上、人類による利用に適さない状態になるだろう。デブリに覆われた領域の中にロケットを打ち上げるのは、安全とは言えないかもしれない。人類は文字通り、地球に閉じ込められてしまうかもしれない。
ここで出てくるのが「愚か」という言葉だ。
ケスラーシンドロームについて知っていれば、LEOでの戦争行為は道義に反するというより、ただ愚かなだけだと、私には思えるのだ。戦車を爆破すれば、残骸が広野に残る。衛星を爆破すれば、時速約2万7000kmで飛行する何千個もの破片ができる。この破片が、人類の資産(人工衛星)を脅かすだけでなく、この資産を今後一切利用できなくなるような状況を生じさせる。紛争の「勝者」が誰であろうと、そうなるのだ。
ケスラーシンドロームは、地球軌道上での戦争が、過去に勃発した他のあらゆる戦争といかに異なるものになるかを示している。戦争の基本論理は土地を占拠して制圧することだが、地上数百kmでは全てのものが動き続けているため、この論理は意味をなさない。軌道を「制圧」したり、宇宙の領域を占拠したりすることはできない。
だから今こそ、宇宙の軍事化をめぐる国際的な協定や規範を策定するために迅速果敢に行動すべき時なのだ。前述したように、私は現実主義者だ。これは平和的で円満な解決に向けて努力するなどという話ではない。核戦争が勃発するのを人類が何とか防げた理由は、愛を見出したからではなく、相互の自己利益に向けて努力する方法に気づくことができたからだ。これまでのところ、宇宙戦はまだ行われたことはない。紛争で衛星が破壊されたことも、まだない。もし今から積極的に協定を模索し始めれば、人類はこのハイフロンティア(宇宙前線)を誰にとっても開かれた状態に保つことが可能になる。これは愚かとはまるで逆だろう。


