人類にとっての大きな対立。これは5月に英国で開催された科学と芸術のすばらしい祭典「HowTheLightGetsIn(こうして光は差し込む)」で、筆者が参加したパネルディスカッションのタイトルだ。テーマは「宇宙戦」だった。
宇宙空間は、人類の対立を好む傾向が表出するもう1つの領域となりつつあることが、この数年で明らかになってきた。今回の討論では、こうした状況を明確に指摘した上で、次のような問題を提起している。
米国が宇宙空間の人工衛星を対象とする攻撃能力の試験を初めて実施したのは1985年にさかのぼる。ロシアは同様の試験をすでに行っており、この数年間で中国とインドもこの仲間入りを果たした。宇宙技術は地上にも影響を与える可能性がある。イーロン・マスクの衛星インターネットサービスはロシアとの戦争でウクライナ軍を支援し続けている。
では、万人の利益のための宇宙開発は常に幻想なのだと認めるべきだろうか。米国も結局のところ、月面に自国旗を立てたのだから。国際協定は平和を維持する助けになり得るか。あるいは、最強レベルの国々が常に独自のルールに従うことになるのか。もしくは、今もなお宇宙空間を人類に深い恩恵をもたらし得る、刺激的な冒険の場と見なすことができるか、またそうすべきなのだろうか。
現実主義の先に
私はこれらの質問に答えるにあたって、自分が現実主義者であることを明確にした。人類が争いを繰り広げることは承知している。これまでに立ち入ってきたどの領域でも、人類は争いを繰り返してきている。これがまさしく歴史なのだ。だがこの点を認めたとしても、宇宙空間で戦争を繰り広げるのは、最も哲学的に深遠な意味において愚かなことだという事実は変わらない。
人類が直面しているこの状況を説明するのに「愚かなこと」という言葉を選んだ理由は、次の2語で要約できる。ケスラーシンドローム(Kessler Syndrome)だ。
地球低軌道(LEO)は地上約160~2000kmの宇宙空間で、情報通信から気候科学、軍事偵察までの人工衛星の大半がLEOに打ち上げられている。すなわち宇宙戦の最も顕著な紛争領域となるのがLEOなのだ。いくつかの国は、LEOを高速で飛行する敵の人工衛星を爆破できる衛星攻撃兵器(ASAT)をすでに保有している。問題が起きるのはここからだ。
NASAの科学者ドナルド・ケスラーは1978年、地球周回軌道上にある宇宙機同士が何らかの形で衝突すれば、危険な制御不能の連鎖反応が引き起こされる恐れがあることを明らかにした。最初の衝突で生じたデブリ(破片)が拡散して広がることで別の衝突が起き、さらにデブリが増える。やがて、こうして生成されるデブリが増えすぎると、LEO全域が正常に機能する人工衛星群の存在できない空間となってしまう。
これがケスラーシンドロームだ。



