もう一度訪ねる価値のある町
こうしたいくつか観察されたこともそうなのだが、この町には筆者をもっと驚かせたことがあった。それはアジア系の飲食店や商店が多く並ぶ通りの一部に、ロシアレストランや食材店が点在していたことだ。
あるロシア系と思われる現代的なスーパーに入ると、ロシアビールの「バルチカ(Балтика)」や各種ウォトカ、ユーラシアでよく飲まれているザクロジュース、赤ちゃんのパッケージが有名なロシアチョコレートの「アリョンカ(Алёнка)」などが、小ぎれいに陳列されていた。
その店のレジでアルバイトしていたのが、顔つきから見て明らかにコリア系とロシア系のハーフ、あるいはクォーターと思われる高校生くらいの年頃の娘さんだった。彼女は韓国で「高麗人(コリョサラム)」と呼ばれる、ロシアやウズベキスタン、カザフスタンなどの旧ソ連諸国に居住する、朝鮮半島出身の移民の子孫だと思われる。
筆者はその店のショーケースを眺めていて懐かしい気分になり、ロシアンハーブティーのティーパックを買い求めた。そのとき、レジ越しに不躾なことは承知で「どこから来たの?」と尋ねたところ、少し恥じらいのこもった微笑みまじりに「ウクライナ」と彼女は答えた。
半島とはいえど、韓国は日本と違い、大陸的な要素を色濃く有する社会なのだ。この町で起きていることは、ソウルの新興チャイナタウンである大林を歩くだけでは見えてこないことを思い知らされた。
この30年で韓国には、日本人が知らない複雑かつ多様な多文化社会が生まれていることも強く実感した。安山はあらためてもう一度訪ねる価値のある町だと思ったのだった。


