文化交流を目的とした音楽イベントも
今回、筆者が訪ねた安山多文化特区がある元谷洞地域は、住民の90パーセント近くが外国人住民だそうだ。通りには、各国の食材や生活必需品を売る店やレストラン、ホテル、カラオケ店が軒を連ね、住民向けの不動産や海外送金会社、両替所、旅行会社、法律事務所、病院、キリスト教会などが点在している。
週末には、地元在住者だけではなく、安山市の近隣で働く外国人住民が、母国の味を求めてこの特区を訪れる。中国やタイ、ミャンマー、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ネパール、スリランカ、興味深いことにユーラシア系(ロシアやウズベキスタン)の人たちが営む店まであり、その数は約50カ国、150店以上のエスニックな飲食店があるといわれる。
とはいえ、すでに述べたとおり、この多文化特区の多数派は中国系で、ソウルの大林と同様に、その多くは中国吉林省延辺朝鮮族自治州(延辺)出身や東北三省(黒龍江省、吉林省、遼寧省)から来た朝鮮族の人たちだ。
街区を歩き回ったところ、一部中国の東北地方以外から来た漢族もいることがわかったが、街区のやや北の中ほど、「元本路」と呼ばれる通りの北側は「マルチカルチュアル」というよりはほぼチャイナタウンで、主に中国朝鮮族の店が軒を並べていた。
数日前に訪ねたソウルの大林では、遼寧省瀋陽出身者の店でご当地冷麺を食べたので、今度は延辺出身の朝鮮族の店に行こうと思って、「順姫」という現地で有名な冷麺店と同じ名前の店に入ることにした。
その店の風情は、筆者が何度も訪れた延辺の冷麺屋とまったく変わらなかった。ジャガイモ粉が多く使われた麺は黒っぽく、スープはほんのり甘い、確かに延辺の味だった。
この日の午後、「マルチカルチュアル・ハーモニー・プラザ」と名付けられた広場で、韓国の海外送金会社「GME」主催による地元韓国の人たちと移民たちの文化交流を目的とした音楽イベントがあった。ここだけには、外国人住民と一緒に周辺に住む韓国の老人たちも多数広場に集まり、フィリピン人バンドによるライブが行われた。
この多文化特区には、外国人住民支援本部やグローバル多文化センターなどの15以上の言語に対応する安山市の相談窓口があり、複数のNGOによる支援活動も行われているという。
とはいえ、イベントの主催者に尋ねたところ、ボランティアスタッフとして参加しているのは、地元の韓国の人たちに加え、主に東南アジア系の10カ国くらいの人たちだけで、筆者の見る限り、多数派の中国の人たちの姿はいないようだった。
これは日本でも見られる現象だが、海外の移民社会ではたいてい多数派となる中国籍の人たちは独自に閉じられたコミュニティを形成しがちで、他の国籍の人たちとの交流はあまり進んでいないのではないかと思われた。


