これまでこの連載で、4つの事例を紹介してきた。岡崎で90年続く石材店、蒲郡の小さな水族館、石垣島の泡盛蔵、岐阜の樹脂成型の町工場。業種も規模もばらばら。だが、誰が見ても、どの業界はもう先はなく厳しいだろうと思うに違いない。
墓じまいが進み、石材需要はピーク時の半分以下に落ちた。大型館に押されて水族館の来館者は12万人台まで減り、議会で廃館が議論された。泡盛は若者の酒離れで右肩下がり。樹脂工場は売上の九割を占めた100円ショップ向けの下請けを失い、4割減に沈んだ。市場の数字を前にすれば、その嘆きはどれも正しかった。
それでも、4社は息を吹き返した。稲垣石材店では、捨てていた端材から生まれた石の器が、国内外のミシュラン星付きレストランや、レクサス、中川政七商店へと渡っていった。竹島水族館の来館者は約48万人と、4倍に回復した。クセが強すぎると言われた池原酒造の泡盛白百合は、世界一とも称されるレストランnomaの食後酒に選ばれ、売上は4年で3倍。服部樹脂の穴のない花器は、いま全国の花屋の定番になっている。
このうち、稲垣石材店、池原酒造、服部樹脂の3社には、私自身が伴走者として関わってきた。竹島水族館館長の小林さんは友人で、彼が率いた再生だが、同じ理論で鮮やかに読み解ける。業種も成り立ちも異なる4社に、共通点はあるのか。その問いを、エフェクチュエーション研究を日本に広める第一人者、『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』( ダイヤモンド社刊)の著者でもある神戸大学の吉田満梨教授にぶつけた。
熟達起業家27人から得た5つ──鳥、許容できる損失、キルト、レモネード、パイロット?
エフェクチュエーションは、いま経営者やビジネスパーソンのあいだで急速に知られはじめている考え方だ。提唱したのはサラス・サラスバシー。彼女自身が、学生時代から15年、七転八倒しながら事業を続けた起業家だった。なぜ自分が苦労して身につけたことを、ビジネススクールは教えてくれなかったのか。その問いから研究の道に入る。
転機は、ノーベル賞経済学者ハーバート・サイモンとの出会いだった。彼女は、起業家が何を語るかではなく、どう考えているかを丸ごと記録する手法を選び調査を進める。



