「エフェクチュエーション」を復習する
エフェクチュエーションを初めて聞く読者のために、その5つの原則を、4社の歩みに重ねながら整理しておきたい。
第1の「手中の鳥」とは、手元にあるものから始めることだ。稲垣石材店は、新しい何かを開発したのではない。墓石を切り出すときに出る端材を、最高級の御影石を職人が手仕事で仕上げた器へと、意味を読み替えた。服部樹脂が頼ったのは、長年培ったプラスチックの精密成型技術だった。竹島水族館に至っては、できることを一つずつやるしかなかった、と小林館長は振り返る。深海魚、距離の近い館内、飼育員のキャラクター。動いた結果として、後から強みが見えてきた。
第2の「許容可能な損失」とは、どれだけ儲かるかではなく、最悪どこまでなら耐えられるかで決めることだ。稲垣さんは、端材と空き時間という失っても痛くない範囲で実験を重ね、書店で高級レストランのガイドブックを1冊買い、そこに載る店へ案内を送った。池原酒造は数量限定のコラボやクラウドファンディングを使い、致命傷を負わない範囲で小さな試みを連発した。
第3の「クレイジーキルト」とは、出会った相手と手を組みながら、事業を継ぎ足していくことだ。稲垣さんはアトツギ甲子園で志を語り、その熱が呼び水となってレクサスや中川政七商店との縁につながった。池原さんは、音声SNSのクラブハウスで公開の作戦会議を始め、そこに紅型職人が現れ、やがてICCサミットのアワードでグランプリを獲り、nomaのソムリエを石垣島まで引き寄せた。服部樹脂の転機も、北海道の葬儀業者からかかってきた1本の電話だった。なぜ植木鉢が要るのかと尋ねたことから、水漏れしない穴のない鉢という主力商品が生まれた。竹島水族館の小林館長は、人と話すのが得意ではないと言う。だからこそ、教えてくださいという姿勢で漁師や地元事業者と関わり、深海魚まつりやオリジナル土産につなげた。最初から什器やコラボを狙っていたわけではない。出会いに応えるなかで、事業が形を変えていった。
第4の「レモネード」とは、不利な条件や失敗を、見方を変えて価値に変えることだ。池原酒造の蔵には、製造で失敗し油っぽくなった泡盛が眠っていた。捨てるに捨てられないその酒を、私はチョコレートと合わせることを思いつく。そのまま飲むと不快な油っぽさが、カカオと溶け合って芳醇な香りに変わった。服部樹脂では、100円ショップ向けに苦労してきた小口配送の経験が、1ケースから直送できる、小さな花屋に手の届くサービスへと姿を変えた。竹島水族館は、古い、小さい、地味という弱点をあえて前面に出した。


