Forbes JAPAN 2026年8月号の第3特集は、日本でも新たな動きが起きているフィランソロピーに注目した「『インパクトフィランソロピー』時代」特集。今、世界、日本で起きているフィランソロピー新潮流では何が起きているのか。これまでも特集をしてきた、日本で起きている「起業家×フィランソロピー」の新たな動きにも探る特集だ。
本記事は特集内に掲載した、井川定一 一般社団法人トラスト・ベースド・フィランソロピー・ジャパン(TBP-J)共同代表理事による寄稿コラムだ。世界のフィランソロピーには今、「4つの新たな潮流」がある。資金の額を問うのではない、この「静かなる変化」はどこを目指しているのか。
社会課題の解決に向けて、財団や企業、篤志家などがお金を出す。そのあり方が、今世界で静かに変わり始めている。問われているのは、資金の額だけではない。資金が流れる構造、いわば「アーキテクチャー」をどう設計し、社会をより良くする変化につなげるかである。背景には、気候変動、孤独、格差、民主主義の揺らぎ、地域社会の疲弊など、社会課題の複雑化がある。こうした課題に対しては、単独の事業やひとつの組織に資金を出すだけでは限界があり、良い団体や事業を選ぶだけでは、十分な社会変化を生み出しにくくなっている。
この変化は、大きく4つの潮流として整理できる。1. 社会課題の解決を支える「仕組み」、2. 活動を担う「担い手」、3. 地域やNPOとの「関係性」、そして4. 資金提供から生まれる「知」である。
ひとつ目の潮流は、個別の事業だけでなく、社会課題の解決を支える「仕組み」に資金を出す流れである。資金の役割は、単独で成果を出すことではなく、ほかの資金、人、制度、知が動き出す条件をつくることにある。そのため、団体同士をつなぐネットワーク、政策提言、データ整備、現場を支える中間支援、フィールドビルディング、エコシステム形成に資金を出す動きが広がっている。
この「仕組み」には、資金の流れを変える設計も含まれる。たとえば、複数の資金提供者が協調する共同基金、ほかの資金を呼び込むコファンディングや呼び水資金、助成・融資・保証・投資を組み合わせる資金設計、インパクト投資など異なる資金との接続である。さらに、財団の資産運用を社会的使命に沿わせる「ミッション整合投資」や、多くの人が少額ずつ応援した活動に資金を上乗せする「クアドラティック・ファンディング」もある。フィランソロピーの役割は、自らの資金だけで課題を解くことから、社会変化を支える土台を育てることへ広がっている。
ふたつ目の潮流は、社会変革の「担い手」そのものへの資金提供である。背景には、社会課題の最前線にいるNPOや市民社会組織に、複雑な判断と長期的な対応が求められる一方で、現場の疲弊が深まっていることがある。活動の先にいる人や地域に変化を生み出すことは重要である。しかし、その活動を担う人や組織が学び、休み、権限を分かち合い、次のリーダーを育てる余白をもてなければ、変化は続かない。
だからこそ、組織基盤の強化や次世代リーダーの育成、組織再編、学習や休養への投資が重視され始めている。非営利リーダーが一定期間現場を離れる「サバティカル助成」も象徴的だ。離れる時間をつくることで、リーダーは回復し、組織の自律性が高まり、次の担い手が育つ。人と組織が力を発揮し続ける環境こそが、社会変化を生み出し続ける力になる。



