人手不足や顧客ニーズの多様化、AIの進歩によって営業職のあり方が大きく変わろうとしている。そんな時代において、新たな営業モデルを実践し、次世代の営業組織の姿を示す企業を表彰するアワード「NEW SALES OF THE YEAR 2026」。そのグランプリに輝いたのが、イトーキだ。
若手主導のDX営業部が営業アプローチを再設計し、部署は売り上げ15倍の成長へ。5年で社員の定着率は93%、メンタル不調者ゼロを達成。そんな営業職の「やりがい」と「成果」を両立した変革とは。
オフィス空間を中心に、人々の働く環境をデザインするイトーキ。アフターコロナのオフィス回帰の流れもあって売り上げは4年で約1.2倍に伸びたが、全社の伸びを大幅に上回る15倍という急成長を見せた営業組織がある。新入社員を中心に立ち上げられたDX営業部である。
イトーキの社員数は単体で約2500人。社内で最も大きい組織が営業で、顧客や地域、代理店別に営業組織がある。既存組織だけでは限界が見え始めたのはコロナ前だった。営業本部副本部長を務める森田良一はこう明かす。
「長期の大型案件が取れず、シェアが低下していました。原因は新規顧客を獲得できず、リピートも少なかったこと。社内にはリード獲得をミッションとしたマーケティング組織はなく、既存のアカウント営業は自分で案件を開拓する必要がありました。しかし、アカウント営業は目の前の案件のフォローで精いっぱい。分析を進めると、案件情報を入手するタイミングが競合より半年遅いことが分かりました。これではコンペに勝てない」
こうした状況を受け、同社は当時の営業本部長を中心に営業改革に着手。デジタルマーケティング組織を立ち上げるとともに、インサイドセールスとフィールドセールスを担うDX営業部を新設。顧客接点の創出から受注までを一気通貫でつなぐ独自の営業体制を整えた。
インサイドセールスがリードを育成した後、案件は既存の営業組織に引き継がれる流れが一般的だ。しかし森田はそれを避けた。「インサイドセールスからアカウント営業にトスアップしても、アカウント営業は『案件の質が悪い』、インサイドセールスは『せっかく案件化したのに動いてくれない』とお互い人のせいにする。そこでDX営業部の中に、案件を引き継ぐ専任のフィールドセールスも置くことにしました」
問題は誰にインサイドセールスをしてもらうか。森田は大胆な決断をした。既存組織から人を抜くと反発が起きる。一方、キャリア採用で人を集めるのは時間がかかる。そこで営業本部の新卒社員16人全員を新組織であるDX営業部に集めたのだ。
とはいえ、新入社員に営業のノウハウはない。森田は上司にかけ合い、全国のアカウント営業からエース級3人をつけてもらった。そのひとりが、当時は四国支店長で、現在セールスディベロップメント統括部統括部長を務める駒川堅一である。駒川はアカウント営業歴18年だが、インサイドセールスの経験は皆無。新入社員に教える以前に自身が学ぶ必要があった。
「実際にやってみると、難易度が高かったですね。フィールドセールスはお客様の表情を見て話せますが、インサイドセールスは聴覚だけで心情を読み取り、ニーズを整理して仮説構築までしないといけない。ただ、難しいぶん、新入社員がインサイドセールスをやれば伸びると思いました」(駒川)
DX営業部は21年4月に発足。トレーニングを受けた新入社員は7月から架電を開始した。架電は対面営業と比べて回数が多く、PDCAを回しやすい。新入社員は短期間に経験を積み、成長していった。
DX営業部には毎年、営業配属の新卒社員全員が配属され、鍛えられた社員はDX営業部内のフィールドセールスに転じるなど、次のキャリアに移っていく。最初に配属された社員は現在6年目だが、「支店なら1年でエースになれるレベルまで成長した社員もいる」(駒川)という。
DX営業部は現在40人規模だ。発足時と比べて陣容は2.5倍だが、冒頭に紹介したように売り上げは直近4年で15倍になっている。一人ひとりの成長がいかに大きいかわかるだろう。



