顧客の信頼をどう築くか
企業への信頼は、どのようにして築かれるのか。パネリストたちは、「AIファースト」のブランドをいかに構築していくかについて議論を交わした。
「創業初期の段階では、顧客は必ずしも製品そのものを信じているわけではない」とハヤシは語る。「彼らは、創業者であるあなたや会社、そしていずれ目標を実現する実行力を信じているのだ。だからこそ、一歩踏み込んだ手厚いカスタマーサポートを提供することが、長期的な顧客関係を築くことにつながる」。
これを受けて、モデレーターのライマンは、システムにいかに持続性と防御力を組み込むかについてパネリストたちに問いを投げかけた。
「既に100社もの保険会社が我々を信頼してくれているという事実を軽く受け止めていない。だからこそ、極めて細かい実務にまで踏み込んで理解することを心がけている」とタッシュマンは語った。
また、ハヤシは次のように述べた。 「一部の顧客は、我々のシステムをSoR(システム・オブ・レコード、業務上のデータ基盤)として使い始めている。なぜなら、業務に関わるあらゆるデータがそこに集約されるからだ。どの企業もSoRになりたいと願っているが、その役割を担えるのは、実際に顧客が毎日繰り返し使い続けるサービスだけだ」。
最後にリウは、AIの進化が急加速する今日において、多くの企業が直面する共通の問いについて言及した。
「AIモデルはいずれ世界を支配するのか、とよく尋ねられる。しかし、私はゼロショット(追加学習なしに未知のタスクをこなすこと)という考え方を全く信じていない。ゼロショットはあくまで研究上の概念だ。研究室の中では成り立つかもしれないが、現実世界では決して存在しない。実際の現場でタスクを遂行するには、追加学習やファインチューニングのために、ロボットが収集した実データが必ず一定量必要になる」。
彼女はさらにこう続けた。
「なぜなら、この世界を作っているのは人間だからだ。組織は人によって運営され、独自の価値観や文化が育まれる。そして、それに基づいた習慣や慣行、ルールが生まれる。だからこそ、どの組織にシステムを導入するにしても、そうした現場の慣行やルールに合わせてロボットの振る舞いを調整していかなければならない。ロボットもまた、新しい環境に投入されるたびに、ゼロから学び直さなければならないのだ」。
AIビジネスの正解が見えにくい不確実な時代だからこそ、パネリストたちが語った実践的な知見は、AIネイティブ企業を率いる起業家にとって確かな羅針盤となるはずだ。


