経営・戦略

2026.06.15 15:40

アトラシアンの「カスタマー・ゼロ」戦略:内側から製品をつくる

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Atlassian(アトラシアン)は、成果の販売を始める前に、約2年にわたって自社内でエンタープライズAI変革を進めていた。同社はAI導入を全社的な取り組みとして位置づけ、営業、人事、財務にまたがってエージェントを構築・展開し、成果を厳格に追跡した。こうして、運用の実体験に根差したプレイブックが形になった。

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そのプレイブックは、充実した一連の製品発表とともに、アナハイムで開催されたアトラシアンの「Team '26」カンファレンスで披露された。新製品やアップデートされた製品群により、アトラシアンの学びがエンタープライズ顧客にも活用できるようになった。

タイミングは絶好だ。エンタープライズのリーダーはAIに大きな投資をしている一方で、何を得ているのかを説明するのに苦労している。個人のレベルでは生産性の物語は説得力があり、アナリストやエンジニア、営業担当者がより速く働き、文書の要約や初稿の作成を進めている。

しかし、経営層のレベルで見る景色は大きく異なる。アトラシアンが13人の行動科学組織「Teamwork Lab」を通じて実施した社内調査は、その断絶を定量化している。2025年から2026年にかけてアトラシアンの個人の生産性は前年比でおよそ33%上昇した一方で、企業レベルの成果に対するCスイート(経営幹部層)の可視性は1桁台前半にとどまった。

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皮肉なのは、技術は機能しているのに、組織がその価値を必ずしも取り切れていない点だ。このギャップこそが、2026年におけるエンタープライズAI導入の決定的な課題である。

カスタマー・ゼロ:アトラシアンはいかにして自社のプレイブックを築いたか

アトラシアンは、多くのエンタープライズテクノロジー企業とは異なり、ツールそのものに「ビジネス課題を解くための最適な使い方」に関する内在的な見立てが組み込まれている。例えば世界のトップクラスのソフトウェア開発組織の多くは、アトラシアンのJiraを中心にワークフローを構築している。こうした組織は、アトラシアンの視点が信頼に足るものであり、十分に確立されていると考えている。

どのテクノロジー企業にも「ドッグフーディング(自社製品を自社で使う)」という概念はある。しかしアトラシアンはさらに踏み込み、まず自社のニーズを満たすために製品を定義して構築し、その成果を顧客と共有する。アトラシアンは常にカスタマー・ゼロである。それは文化として根付いている。

筆者は、アトラシアンの最高人事責任者兼AIイネーブルメント責任者であるAvani Prabhakarと対話し、2024年末以降彼女が主導してきた社内変革プログラムについて話を聞いた。PrabhakarはIT、社内データサイエンス、顧客向けテクニカルサポートを統括しており、これはAI変革が単一機能に委ねられるものではないという同社の結論を反映した統合である。

「これを実現するには、社内にフォワード・デプロイ(現場に近い形での)エンジニアリングの推進が必要だとわかっていました」と彼女は説明した。「従来型のITでは機能しません。企業には文化変革が必要なのです」

さらに彼女は、CEOのMike Cannon-Brookesが、コンサルティングのフレームワークではなく、実際の運用経験に基づいて企業が採用できるプレイブックを作りたいと考えていたことを明かした。「世界のコンサルティング会社のように見えたり聞こえたりしてはいけない、と彼は言いました」とPrabhakarは語る。「『これは私たちの実体験だ。こうやってやった』というものにすべきだ、と」

その指示は、アトラシアンが自社変革のために策定した3つの運用原則を形づくり、Prabhakarはいまそれを顧客との対話にも持ち込んでいる。

  • 効率化の指令ではなく、イノベーションの物語を通じてAIをリードする。
  • 成果を過度に約束するのではなく、未知の部分を率直に認める。
  • AIをデジタルトランスフォーメーション・プログラムとして扱うのではなく、高速な実験ループを回す。

ワークフローの選定プロセスは意図的にボトムアップで進められた。アトラシアンは社内AIイノベーション・デーを実施し、ROIが最も高いユースケースを洗い出した。その結果、営業、人事、財務、法務を含む部門横断で、およそ14のワークフローが生まれた。共通しているのは、AI機能が上から押し付けられたのではなく、内側から育ったという点である。

Team '26:インフラとしてのコンテキスト

アトラシアンの製品ポートフォリオは、Prabhakarのチームが社内で得た学びの直接的な延長線上にある。

あらゆる発表を貫く中心軸は「組織のコンテキスト」であり、アトラシアンはそれをTeamwork Graphに格納する。これは、人、プロジェクト、文書、コードリポジトリ、目標、意思決定を結び付けた「接続された地図」と捉えるとよい。アトラシアンはTeamwork Graphを、Jira、Confluence、Jira Service Management、そして連携するサードパーティーシステムを横断して、エージェントが推論できるようにするための「接続の背骨」だと説明している。

アトラシアンによれば、Teamwork Graphには現在1500億超のコネクションが含まれ、顧客ベース全体で日次120億の変更により更新されているという。

CEOのMike Cannon-Brookesは、基調講演で前提を示した。「2026年には、誰でもトークン単位で『賢さ』を買える」と彼は言う。「本当の堀(moat)は、組織の記憶だ。チームがこれまでに作ってきたあらゆる計画、文書、意思決定である」

イベントにおける最重要発表の1つとして、アトラシアンはTeamwork Graphを外部システムに開放する。

Teamwork Graphのコマンドラインインターフェース(CLI)は、AnthropicのClaude CodeやOpenAI Codexといった開発者・コーディングエージェントに対し、ローカルツールやCIパイプラインから、アトラシアンの作業コンテキストへ直接かつ構造化されたアクセスを提供する。個別製品のAPIを介して作業する必要はない。

並行して、Teamwork Graphのツール群はエージェント型(agentic)ワークフローの支援を強化した。アトラシアンの中核AIフレームワークであるRovoには、同じコンテキストをMCP互換のAIクライアントに公開するMCPサーバーが含まれる。これにはFigmaやReplitといったツールも含まれる。

Team '26でのその他の製品発表は、運用面の全体像を補完する内容だった。

  • Rovo Studioが一般提供(GA)を開始。Teamwork Graphのコンテキストに基づくエージェント、オートメーション、アプリケーションを構築するためのノーコード環境で、ロール、承認、バージョニング、監査コントロールが組み込まれている。
  • Jiraのエージェント機能が一般提供を開始。チームは人間の担当者と同じインターフェースで作業項目をAIエージェントに割り当てられ、コンプライアンスチーム向けに設計された完全な監査ログが備わる。
  • DX AI Experienceが一般提供を開始。エンジニアリングリーダーは、AIがどこでコードを生成しているか、エージェントの性能、AI支援開発のROIを可視化でき、エージェントの出力をSDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル)のガバナンス下にある一部へと変える。
  • Rovo Maxモードが早期アクセスを開始。曖昧な依頼を構造化されたワークフローへ分解する高度なプランニングエンジンにより、連携ツール横断のマルチステップのタスク実行を可能にする。
  • Remix with RovoがConfluence向けにベータ版として提供開始。ページを離れることなく、テキスト、表、リストをチャート、インフォグラフィック、スライドへ変換できる。単一の信頼できる情報源(single source of truth)を維持しつつ、形式の柔軟性を実現する。
  • Product Collectionが早期アクセスを開始。Jira Product Discovery、新たなFeedbackアプリ、そして計画中のPendo連携を組み合わせ、顧客シグナルから出荷済みの作業までをつなぐプロダクトマネジメントのワークフローを提供する。

競争環境

アトラシアンが競うエンタープライズ向けコラボレーションツール市場は大きく、競争は一段と激化している。

  • Microsoftは、Microsoft 365 CopilotをTeams、SharePoint、Officeスイート全体に組み込み、エンタープライズのナレッジワーク領域で最も広いフットプリントを持つ。
  • ServiceNowは、AIによりオーケストレーションされたワークフローへ攻勢を強めており、とりわけITサービス管理と運用で存在感を示す。
  • SalesforceのAgentforceは、同社のAI戦略を営業および顧客体験のワークフローへ拡張する。

これら各社はいずれも、長年の顧客データと深い統合フックに支えられた、それぞれの「組織コンテキスト」ストーリーを持っている。

アトラシアンの差別化は、開発・プロダクトチーム領域におけるフットプリントの深さにある。JiraとConfluenceは、大規模なソフトウェアチームにおいて支配的な記録システム(system of record)であり、Teamwork Graphに、コードレビュー、スプリント履歴、インシデント記録、アーキテクチャ上の意思決定といった、汎用のコラボレーションプラットフォームでは再現できない密度のエンジニアリング・コンテキストをもたらしている。

すべてのAIインタラクションをアトラシアン製品内で完結させることを求めるのではなく、MCPとCLIインターフェースを通じてそのグラフを開放するという判断は、重要な転換である。Rovoをアトラシアンのコンテキストに対する唯一のインターフェースとして位置づけるのではなく、同社はTeamwork Graphを、競合ツールを含む他のAIシステムが接続できるインフラとして扱っている。

アトラシアンは、排他性よりも普遍性に賭けることで、AIスタックの中心がすでにClaudeやCopilot、あるいは別のアシスタントにある組織に対し、導入摩擦を減らそうとしている。

この賭けのリスクはデータ品質にある。RovoのMCPサーバーとTeamwork Graph CLIは、組織のJiraとConfluence運用の品質をAIエージェントに直接さらす。文書が古いまま、チケットのオーナーシップが一貫せず、知識が分断されている組織では、その弱点が人間の「その場しのぎ」で吸収されるのではなく、エージェントの失敗として表面化する。

アトラシアンの社内の歩みは、必要な投資を示している。プレイブックの構築には、結果が出るまでに、CISO、CIO、CTO、データサイエンス、人事チームの緊密な連携が1年以上にわたって必要だった。

アナリストの見立て

Rovoは現在、アトラシアンのエンタープライズクラウド顧客の90%以上に展開され、Fortune 500企業の75%以上で利用されている。顧客ベース全体でのエージェント型オートメーションは、この6カ月で7倍に伸びた。

これらの導入指標は多くのエンタープライズソフトウェア領域を上回るペースであり、Teamwork Graphの外部エージェントへの開放は、アトラシアンの接点(surface area)をインストールベースをはるかに超えて拡大する。Claude Code、Codex、Figma、Replitを使う組織は、Rovoライセンスがなくとも、アトラシアンのコンテキストにとって潜在的な入口となる。

競争圧力は加速する一方だ。MicrosoftはエンタープライズのIDとカレンダーデータに強みを持ち、Googleはメールと文書のコンテキストに強みを持ち、Salesforceは顧客記録の深さに強みを持つ。つまり、単一ベンダーが組織コンテキストの全体像を所有しているわけではない。

Teamwork GraphへのMCP組み込みは、その分断に対するヘッジであり、マルチベンダーのエージェント・アーキテクチャに対して競争するのではなく、そこに参加するための手段である。Cannon-Brookesはこれを端的に表現した。「管制塔になりたいわけではない」と彼は言う。「あなたの地下鉄ネットワークの中で、本当に重要な駅になりたい」

いまこの瞬間にアトラシアンの立ち位置に信頼性を与えているのは、カスタマー・ゼロの規律である。AIコラボレーションプラットフォームを評価する企業は、今後ますますこの種の証拠を求めるだろう。実際の社内導入、測定可能な成果、そして移植可能な方法論を示せるベンダーは、AIを「理想の上塗り」として提示するだけのベンダーから抜きんでる。

アトラシアンは、その主張を内側から外側へと積み上げるのに2年を投じた。Team '26は、アトラシアンがそれを世界と共有した場である。

forbes.com 原文

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