カフェチェーンで世界に4万店舗以上を展開するスターバックスが、好調な日本事業の売却を検討していると報じられた。米本体が苦境に陥っている要因は後述するとして、一つ思い出したことがあった。それは同社を世界的ブランドにした中興の祖、ハワード・シュルツ元CEOが「最高調停人」と呼ばれていたことだ。
「最高調停人(conciliator-in-chief)」とは、「commander-in-chief(軍最高司令官=米大統領のこと)」をもじったユーモアである。このニックネームは、2015年にハワード・シュルツCEOに密着していたフォーブスの記者が記事で触れたものだ。当時、まさにcommander-in-chiefとなるアメリカ大統領選の候補者が乱立していた。ドナルド・トランプ、バーニー・サンダース、ヒラリー・クリントン、ジェブ・ブッシュ、テッド・クルーズなど17人が名乗りを挙げて、メディアはこれを「サーカス」と呼んだ。この時、共和党や民主党ではなく、第3の候補として名前が取り沙汰されていたのがシュルツだった。
当時、フォーブスがスターバックスの経営陣を取材していくと、「彼が国政に携わることはない。どちらかというと、最高調停人だから」という言葉を耳にする。それは、シュルツがアメリカ社会の難題を議会ではなく、スターバックスという「サードプレイス」を使って本気で変えようと思っていたし、それに向けて実行していたからだ。例えば、「ミリタリー・ファミリー・ストア」というプロジェクトがある。
2013年11月に発表されたこのプロジェクトは、「退役軍人とその配偶者を5年間で1万人雇用する」というもので、軍事施設の近くにスタバの店舗をつくり、転勤が多く、社会的に孤立しがちな軍人家族や、アフガン戦争やイラク戦争で負傷した退役兵とその家族を支援するものだ。雇用だけでなく、メンターのネットワークをつくった。戦争で手足を失ったり、心的外傷のトラウマを負ったりして社会復帰できない退役兵たちのコミュニティハブとしてのスタバである。
ミリタリー・ファミリー・ストアは5年間で1万人雇用という目標だったが、前倒しで達成。現在も続き、全米250店舗に拡大し、売上げの一部は寄付されている。
あるいは、「Race Together」と書かれた紙コップをご存知だろうか。2013年に白人警官が非武装の黒人少年を射殺したものの、無罪になった。この事件に衝撃を受けて、スターバックスのバリスタや店長たちが泣きながら議論したことがあった。この話を知ったシュルツは、人種間の和解をメッセージにしたコップを提案した。これは批判を浴びて、1週間で中止となった。
人種問題、銃規制、死刑問題、若者の雇用、教育格差など、解決が困難なテーマの議論ができる、「コミュニティの場」がシュルツの考えるスターバックスである。こうした理想は、彼の生い立ちに関係がある。彼の父親が職場の事故で働けない体となり、子供の頃から厳しい生活環境を強いられてきた。しかし、母親は成績の良かったシュルツに期待をかけて、困難を乗り切るためには何事も準備が必要だと毎日、準備をする心構えを説いては実践に移させていたという。



