投資家がインドネシアについてひとつ学んだことがあるとすれば、東南アジア最大の経済大国が世界のニュースの見出しを飾るとき、それはたいてい良くない内容だということだ。
典型例は1997年である。アジア通貨危機の発火点は同年7月のタイだったかもしれないが、世界の金融システムを本格的に揺るがすことになったのは、その翌月、インドネシアが見舞われたルピア暴落だった。それは危機の連鎖を一気に加速させ、当時世界トップ10の経済大国だった韓国を倒すにいたった。3大陸の中央銀行当局者は緊急対応を余儀なくされた。
たしかに、信頼に足る観測筋の間で、1兆5000億ドル(約240兆円)規模の現在のインドネシア経済が当時と近い状態にあると見る向きはほとんどない。それでもルピアの最近の急落ぶりは、市場ができれば思い出したくない記憶をいやがおうにも蘇らせている。2026年もまだ半分を残すなか、ルピアはこれまで約8%下落している。下げ足は、2025年にアジアで最もパフォーマンスの悪かった通貨で今年も約6%下げているインドルピーよりも速い。
とはいえ、インドネシアの通貨下落は一国の話にとどまらない。それは3つの面で世界への警告となっている。しぶといドル高、新興国市場を危険にさらす既存の脆弱性、そして政策の信認リスクの再来である。
ここへきてドルが見せている強靭さは、多くの投資家を当惑させている。米国の国家債務は39兆ドル(約6200兆円)を超え、ドナルド・トランプ米大統領による関税は貿易を圧迫し、欧州中央銀行(ECB)は金(ゴールド)が米国債を抜いて世界最大の準備資産になったと報告している。理屈の上では、ドルの急激な調整があってもおかしくないように思える。ところが、世界的な不確実性の高まりのために、マネーは再びドルへ向かっている。その不確実性は主にワシントンに発しているのだから、なんとも皮肉な現象だ。長年の習慣はなかなか抜けないということでもある。
その習慣を脱するのは一段と難しくなるかもしれない。米国の5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で4.2%上昇し、約3年ぶりの高い伸びとなった。これを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)の次の一手は利下げではなく利上げとなる可能性が高まっており、ドル高がさらに進む余地も大きくなっている。



