これは量子コンピューティングの「ピノキオの瞬間」になるかもしれない。木の人形が本物の少年になったように、この分野全体が本物──ただし「本物の少年」ではなく「本物の産業」になった、その節目となる出来事だ。GlobalFoundriesの新事業「Quantum Technology Solutions」は、米商務省のCHIPS研究開発助成金、3億7500万ドル(約601億円)を後ろ盾に、量子製造専門の事業部門を立ち上げた。目指すのは、量子コンピューティングのエコシステム全体に量子プロセッサーを供給する企業になることだ。
これが持つ意味は大きい。
量子コンピューティングはその歴史の大半において、産業というより、巨額のベンチャー資金を注ぎ込まれた科学プロジェクトの寄せ集めだった。量子ビット(量子コンピューターの基本演算単位)も、制御用の電子回路も、パッケージングも、極低温冷却の配管も、各社がすべてを自前で開発していた。どのマシンも、一流のエンジニアたちが特注部品ばかりを手作業で組み上げる、ほぼ一品物だった。これは、およそ50年前の従来型コンピューター産業の姿とほぼ同じだ。こうしたやり方からも、驚異的な技術や見事なデモ、さらには世界を変える量子コンピューターさえ生まれ得る。だが、それは工場とはいえない。量子コンピューターを研究室から、それを必要とするあらゆる場所へ届けられる仕組みではないのだ。
GlobalFoundriesの新事業は、量子コンピューター開発で競い合うほぼすべての方式にまたがる顧客を抱えて始動する。PsiQuantum(フォトニクス方式)、Quantinuum(イオントラップ方式)、DiraqとQuantum Motion(いずれもシリコンスピン量子ビット方式)、そしてEqual1が名を連ね、さらにグーグルの量子コンピューター開発部門Google Quantum AI、マイクロソフト、エヌビディアが公に支持を表明している。
つまりこれは、特定の一技術のための製造拠点ではない。エコシステム企業の誕生という、構造そのものの変化なのだ。
半導体受託製造企業(ファウンドリー)が、複数の量子ビット方式にまたがって、標準的な300ミリウェハーの量産ラインで、他社向けに量子プロセッサーや制御チップ、相互接続部品の製造に乗り出す。それはサプライチェーンの誕生を目の当たりにしているということにほかならない。
これは、半導体を垂直統合型のニッチ分野から1兆ドル(約160兆円)規模のエコシステムへと変貌させた「設計と製造の分離」と同じ流れであり、成熟に向かうハードウェア産業が最終的に必ずたどる道でもある。
家内工業にファウンドリーは要らない。だがエコシステムには必要なのだ。
この動きが開発スケジュールに何をもたらすのか。量子コンピューティングを試作機の規模にとどめてきた製造上の課題をどう変えるのか。そして「誰が先に到達するか」という地政学にどう影響するのか。それを掘り下げるため、GlobalFoundriesでQuantum Technology Solutionsを率いるニコラス・サージェントに話を聞いた。



